CONTRASTは、創(造)る行為で私たちを魅了する人物にフォーカスし、彼らとの対話から「ものづくりの温度」を伝えるウェブマガジンです。

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CONTRAST [インタビュー] わたしと私、優しさと鋭さ

わたしと私、優しさと鋭さ

南壽あさ子(プロフィール)

南壽あさ子

プロフィール 南壽あさ子
透明感あふれる唄声、何処か懐かしい情景を思い起こす詩の世界観が注目を浴びている希代のシンガーソングライター。

2012年6月にシングル『フランネル』でインディーズデビュー。同年11月には1stミニアルバム『Landscape』をリリースし、 収録曲『冬の旅人』は全国ラジオパワープレイを記録。2013年10月にシングル『わたしのノスタルジア』でメジャーデビューを果たす。すべての人のふるさとに唄を届ける『Nostalgia』ツアーでは、ファイナル公演を赤坂BLITZで完結させ無事全国47都道府県すべてで歌い上げた。現在bayfmにて、彼女の声の魅力が伝わる、レギュラー番組『真夜中のsoup』を毎週日曜日に絶賛放送中。最新作は2014年3月12日にリリースされた『どんぐりと花の空』。6月25日には早くもニューシングル『みるいろの星』をリリース予定。

南壽あさ子 公式サイト

話し言葉に個性が出るように、文章とその単語選びにもその人らしさが表れる。例えば、分かりやすいのは一人称だ。「僕」を「ぼく」と平仮名にすると柔らかな印象に変わるし、「ボク」と片仮名にした場合はどこか不思議な雰囲気を纏う。日本語特有のニュアンスの変化。シンガーソングライター 南壽あさ子が綴る歌詞は、独特の筆致に溢れている。

2014年3月12日(水)にリリースされたシングル「どんぐりと花の空」では、表題曲のリリックの一節すべてを「きみをいっしょにわすれていって」と平仮名で表し、全体感として童話のような手触りがある。曲の中に登場する「ぼく」と「きみ」は、おそらく少年と少女なのだろう。その一方で、カップリングの「狼にベルガモット」は平仮名と漢字はイーブンなバランスで使われている。自然風景を感じさせた表題曲に対して舞台はライブハウス。「わたし」を「あたし」と綴っていることから、ここで描かれている女性像は幼くない。「狼」と「ベルガモット」という無関係な単語の組み合わせもユニークで、この2曲だけでも彼女が言葉に思い入れの深いシンガーソングライターであることがわかる。

幼少期からたくさんの活字に触れてきたという南壽あさ子。本と隣り合わせの生活を送ってきた彼女を書店に招き、その表現の特徴である言葉に焦点を絞ったインタビューを行った。

撮影協力:nostos books

Text by Shota Kato Photo by Chika Takami

どうして私はここまで字面にこだわるんだろう?

南壽さんは本好きだと聞いて、今日は本屋さんでの撮影にお付き合いいただきました。

南壽

小さい頃からすごく好きなんです。特にファンタジー小説とか絵本が好きで、一番好きなのは『ナルニア国物語』シリーズの『第一章・ライオンと魔女』ですね。ずっと大切に持っています。小学校3年生くらいから本を集め始めて、最初のうちは読めない字が多かったけど、高学年になると内容がわかるようになってきて。

ファンタジー小説や絵本の魅力はどんなところに感じますか。

南壽

例えば、『ナルニア国物語』のタンスを抜ければ異世界が待っているように、ファンタジーにはそういった異次元の世界が広がっているんです。本のところどころに挿絵が入っているのもかなり想像力を掻き立てたせるものですけど、やはり文字ありきなので、そこから自分の中で空想したり、描写を頭の中で再現したりするのがすごく好きでした。

CONTRAST [インタビュー] 南壽あさ子 | わたしと私、優しさと鋭さ

どちらかというと、海外文学のほうが好き?

南壽

本に入り込むきっかけとしてはそうでしたね。日本語の絵本にはない、独特な日本語訳がクセになっています(笑)。翻訳された絵本のなかには、いかにも「ああ、英語を訳しているんだな」とわかりやすい作品もありますよね。小さい頃はそんな風に考えてはいなかったけれども、大人になってから「あの句読点の多い感じがよかったな」と思える部分があって。

あぁ、それわかります(笑)。普段、本屋さんにはよく行きますか。

南壽

本屋さんはすごく好きです。何か買わなかったとしても、いくらでも時間を使えます。ふらっと立ち寄って、気になったタイトルやジャケットを眺めるのが好きで、そういうところから思わぬ発見がありますね。お店によっては最新のものばかりじゃなく、本を売る人の気持ちや好みがすごく反映されているので、本屋さん毎の個性を感じるのも好きです。

CONTRAST [インタビュー] 南壽あさ子 | わたしと私、優しさと鋭さ―

南壽さんの歌詞や曲タイトルは、平仮名と漢字の使い分けに特徴がありますよね。きっとそれは、本に触れていたことからの影響が大きいんじゃないかなと思っていたんです。

南壽

それに気付いてくださるとすごく嬉しいです。まず、紙がすごく好きで、そこに印刷された活字を読むことが好きなんです。字面としていい言葉や、自分がより伝えたいことを表せる言葉を歌詞に使いたいと思っているので。

例えば、どんな言葉が挙げられますか。

南壽

そうですね、「私」を敢えて平仮名で「わたし」と書いたりします。

平仮名は丸みがあって、柔らかいニュアンスを表現できますよね。

南壽

そうですね。逆に鋭さを表したいときは漢字を使います。「どんぐりと花の空」の歌詞でいうと、わざと「ぼくはいかなくちゃ」と全部平仮名にしたり、特に「きみをいっしょにわすれていって」という部分は、『アルジャーノンに花束を』を意識していますね。

あぁ、なるほど。主人公が記憶を忘れていってしまう感じだ。

南壽

はい。ページをめくっていく毎に、ページのなかに空白ができていくところに衝撃を受けました。最初は『アルジャーノンに花束を』から影響を受けていたとは考えていなかったんです。でも、「どうして歌なのに、私はここまで字面にこだわるんだろう?」と考えてみたら、これまで読んできた活字の印象から来ているものなんだなと気付いたんですよ。

いつも童話的で優しい世界観を描きたいというわけではない。

平仮名と漢字の使い分け以外にも意識していることはありますか。

南壽

こだわりすぎると、逆にぼやけてしまうので、全体に統一感を持たせるように心掛けています。「君」という漢字を使うのに、どうしてここだけ「きみ」なんだろうと、私が歌詞に込めた意図に気付いてもらえるように。漢字だと一文字になってしまうものが、平仮名にすることで文字数の幅が広がりますよね。それによって、より「読む」という形になるということも含めて、敢えて平仮名を使ったりします。

あ、たしかに。見慣れた言葉が平仮名表記になっていると、読んでいて視線が止まりやすい。

南壽

あとは、表題曲とカップリング曲でも使い分けたりしますね。カップリング曲で、ちょっと大人な世界を表現したい場合は、漢字を多く使ったり、「私」を「わたし」ではなく「あたし」という表記に換えたり。そうやって、いろんなバリエーションを曲に持たせることは意識していますね。単に、いつも童話的で優しい世界観を描きたいというわけではないので。

CONTRAST [インタビュー] 南壽あさ子 | わたしと私、優しさと鋭さ―

あと思ったのは、「狼にベルガモット」のように、なかなか結びつかない言葉の選び方にも特徴がありますよね。

南壽

言葉の繋ぎ合わせ方は「豚に真珠」とか「馬の耳に念仏」とか、ことわざのように無関係な言葉を私なりに選んでいます。「ベルガモット」といえば柑橘系の果実ですけど、単純に言葉の響きが好きなんです(笑)。歌にしたときに、ちょっと声に出したくなる言葉というか。音楽は聴覚に訴えかけるものですけど、味覚や嗅覚を感じてもらえるといいなということで「ベルガモット」を使っているんです。「狼」は「一匹狼」からきていて、人を動物に例えると少し大人な感じがするといいますか。夜に吠える感じを表現してみたかったんですね。

「狼にベルガモット」はオリジナルバージョンに加えて、「赤ずきんちゃん Ver.」を作っていますよね。

南壽

もともと「狼にベルガモット」はライブハウスをモチーフにしたアンダーグラウンドな世界の話なんです。

構成は近いけれども、歌詞がまったくの別ものにアレンジされていますよね。

南壽

そうですね。たまたまレコーディングしていた時期に、サンリオ ピューロランドに『My Melody in Akazukin ~マイメロディの不思議な大冒険~』という新しいアトラクションができるということで、イメージソングのお話をいただいて。それで、「狼にベルガモット」を聴いていただいたら、偶然にも赤ずきんちゃんと同じ『狼』が共通点としてあったんです。歌詞の内容は全然違うのに、お互いにすごくびっくりしました。そこから、せっかくなので、別バージョンを作ってしまおうと。地下に潜っていく暗い感じと、森に迷い込んでいくスリル感に共通点を見出しながら、歌詞をアレンジしていきました。「赤ずきんちゃん Ver.」のほうは、赤ずきんちゃんが狼に食べられてしまってお腹の中にいるシーンから始まるようになっています。

絵本やファンタジーの扉が開く瞬間がなければ、今の南壽さんの世界観はまったくの別ものになっていたと思いますか。

南壽

そう思います。当たり前のことだけど、絵本は大人が書いているものだから、そこには大人が子どもに伝えたいことが入っていますよね。でも、お父さんやお母さん、幼稚園や保育園の先生が読み聞かせたりするものには、実は大人に対してのメッセージも潜んでいて。大人になってから読み返してもいいものだと思うし、大人になるにつれて忘れてしまった何かを取り戻すものでもあると思うんです。私の歌を聴いていただいた方に、忘れていたものを取り戻せたと言っていただけると嬉しいです。

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