CONTRASTは、創(造)る行為で私たちを魅了する人物にフォーカスし、彼らとの対話から「ものづくりの温度」を伝えるウェブマガジンです。

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CONTRAST [インタビュー] 街の声に耳をすませて

街の声に耳をすませて

堀部篤史(プロフィール)

堀部篤史

プロフィール 堀部篤史
1977年生まれ、京都府出身。立命館大学文学部在学中から恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、現在は店長を務める。店舗の運営の傍ら、音楽レーベルとコラボした限定書籍の出版、イベントのブッキングなどを手掛ける。
また、『本を開いてあの頃へ』、『本屋の窓からのぞいた京都』、『街を変える小さな店』などの著書の他、フリーペーパーや雑誌への寄稿も行なうなど執筆活動も盛んである。

恵文社 一乗寺店
恵文社 一乗寺店Twitter

CONTRASTは、東急世田谷線・松陰神社前にオフィスを構えている。2両ワンマン電車の沿線。お店同士の付き合いが深く、活気のある商店街だ。

同じく2両ワンマンの叡山電車が走る京都は一乗寺。古都、京都にいることを忘れてしまいそうな、どこか私たちのホームに似たような空気が漂う街に、恵文社一乗寺店は店を構える。3店舗を展開するチェーン店でありながら、その品揃えは一般的な書店とは異なり、取次(本の流通業者)を介さないような自主制作本や雑貨の取り扱いも多い。ときにはパンを売ったり、イベントやライブをしたり。「本屋」という枠からはみ出した本屋の噂は各地に広まり、日本のみならず海外からもお客さんが足を運ぶようになった。

ネットショッピングの普及により到来した、自宅に居ながらにしてモノが手に入る時代。それでも、恵文社に足を運ぶ人が絶えない理由が知りたいし、それは足を運ばなければわからないと思った。店長である堀部篤史の著書『街を変える小さなお店』を携え、私は京都へ向かった。

Text by Yukari Yamada Photo by Hideaki Hamada

10年のモラトリアム期間

著書(『街を変える小さな店』)を読ませていただきました。とてもおもしろかったです。

堀部

ありがとうございます。

この中では恵文社でアルバイトを始めた頃からお話が始まっているんですが、それ以前に何かご経験はあったんですか?

堀部

ちょっとした短期バイトくらいですね。実家が商売をやっていたので、その都合で親しいお店で夏休みに働かせてもらったりとか。恵文社には学生のときに入ったので、それまでにアルバイトのキャリアと呼べるものはほとんどなかったです。今はもうなくなってしまったんですけど、街中のレコード屋さんと掛け持ちしていました。

CONTRAST [インタビュー] 堀部篤史 | 街の声に耳をすませて―

ご出身は立命館なんですね。

堀部

中学校から立命館で、良くも悪くもエスカレーター方式で大学まで進みました。だから、中学校に受かった時点でほとんど勉強しなくなっちゃったので、いわゆるモラトリアム期間が10年くらいありました(笑)。今になって、アカデミックな教育をもっと受けておけばよかったなと後悔してますね。

長いですね(笑)。その期間は何に費やしたんですか?

堀部

学校の勉強というよりは、趣味にばっかり時間を割いてました。マンガを読んだり、友達と遊びに行ったり、クラブイベントをやったり、音楽が好きだったのでレコードを買い漁ったり。そのときはあまり意識してなかったですが、本を読むことも多かったですね。

外から受ける刺激のほうが多かったんですね。大学では何を学んでいたんですか?

堀部

文学部英米文学科を専攻したんですけど、特にその学科を目指して勉強したわけではないんですよね。もちろん好きなことの一つではありましたけど、積極的に選んだわけじゃなく、たまたま選べるような環境にいたから選んだだけで。籍を置いていたという程度の感覚ですね。

本屋とは「編集者」である

本屋で働こうと思ったきっかけは何だったんですか。

堀部

昔から本はよく読んでいましたけど、それほど本に詳しかったわけでもないので、特に本屋になりたいという願望はありませんでした。好きなことを仕事にしたというよりは、嫌いでないものの一つとして本に携わることを選択したというくらいの気持ちですね。もともと自分が持っている知識を生かしつつ、新しい知識が必要なときは、その都度勉強してきました。むしろ、自分のやっている仕事を好きになれることの方がすごく重要だと思うし、仕事にしたことで本への意識が変わった部分もあります。

具体的にどのように意識が変わりましたか?

堀部

本の内容以外のところにも興味を持つようになりましたね。著者のこととか、本そのものの外見の良さとか。モノとしていい本とか、デザインがいい本とか、持っていて嬉しい本とか、いろんな本の楽しみ方ができるようになってきたと思います。あとは、「この本がどう読まれているのか」ということも考えるようになりました。

CONTRAST [インタビュー] 堀部篤史 | 街の声に耳をすませて―

アルバイトだった頃と今の店長というポジションでは、同じ本屋のスタッフでもまた視点が変わってきたんじゃないでしょうか。

堀部

そうですね、お店の経営を考えないといけなくなりました。いくら品揃えが独特でおもしろくても、潰れてしまっては意味がないですからね。長く営業を続けるためには、ちょっとずつ内容が変わりながらも街と溶け込んでずっと在り続けることがすごく大事で。お店とお客さんとの綱引きというか、お客さんに喜んでもらうことで影響を受けることもあるし、ただ、お店側としてもここは譲れない一線を持っていて、それがお客さんを惹き付けたりすることもあるので。

お店の「個性」ですね。

堀部

そういったところのバランスですよね。まあ、毎日同じことを繰り返してきて、ここ数年でやっと掴めてきたところなんですが。

他にも、本屋で働くようになって身に付いたものはありますか?

堀部

僕に限ったことではないんですけど、今はたくさんの選択肢があるし、インターネットもあるから、ちゃんと時間を作ってそれに向き合う気持ちにならなければ一冊の本をゆっくり楽しむことはできないですよね。当然、本屋には毎日大量の本が入荷してきて、一冊一冊を手に取って読む時間もないままそれを紹介しなければいけなかったり、すぐ店頭に並べたりしないといけないわけですから、幅広い情報にさっと目を通すスキルはつきました。

少し目線を離すことで見えてくるものもありますよね。

堀部

本屋というのは1つのメディアなんですよ。だから、出版傾向や売れ行きを見ていくうちに「今こういうものがすごく価値観として形成されつつあるんだ」というのがわかるようになってくる。それをパッケージしてイベントをしてみたりとか、本棚やコーナーを作ってみたりとか、取り上げて紹介してみたりとかしていくのが僕の仕事です。「これからこういうのがくる」というのではなくて、お客さんや出版の流れを見て、「今こういうのがおもしろいんだ」っていうのを形にして提示する、編集者のような役割だと思ってますね。

CONTRAST [インタビュー] 堀部篤史 | 街の声に耳をすませて―