CONTRASTは、創(造)る行為で私たちを魅了する人物にフォーカスし、彼らとの対話から「ものづくりの温度」を伝えるウェブマガジンです。

contrast

CONTRAST [インタビュー] 大人になるということ

大人になるということ

飯塚健×小林涼子(プロフィール)

飯塚健×小林涼子

プロフィール 飯塚健×小林涼子

飯塚健
1979年生まれ、群馬県出身。
映像作品の監督、舞台演出やテレビアニメの脚本、小説やエッセイ集を上梓するなど、幅広く活躍するマルチクリエイター。22歳の時に『Summer Nude サマーヌード』を初監督。2003年に公開、劇場映画デビューを果たす。その後も『放郷物語 THROES OUT MY HOMETOWN』(2006年)、『彩恋 SAI-REN』(2007年)、『REPLAY & DESTROY』(2011年)などを手掛ける。『荒川アンダー ザ ブリッジ』(2011年ドラマ放送、2012年映画公開)では、原作をもとにした作品に初挑戦し、大ヒットを記録。TBSドラマNEO枠で『イロドリヒムラ』(2012年)の第2話の監督を担当。その後に手掛けた『風俗行ったら人生変わったwww』(2013年映画公開)も話題作となる。最新作は2014年4月4日(金)公開の『大人ドロップ』。2014年7月からはフジテレビ系ドラマ『GTO』の演出を担当することが発表されたばかり。

大人ドロップ オフィシャルサイト


小林涼子
1989年生まれ、東京都出身。ヒラタオフィス所属。<br> ファッションモデルとして活動しながら女優としてのキャリアをスタート。過去の出演作はTBS系ドラマ『砂時計』(2007年)、『魔王』(2008年)、LISMOドラマ『Replay & Destroy』(2011年)、フジテレビ系ドラマ『謎解きはディナーのあとで』(2011年)、山田くんと7人の魔女(2013年)、映画『子ギツネヘレン』など。『大人ドロップ』では野中春役を担当。東海テレビ系ドラマ『鉄子の育て方』では、主人公、二郷あずさを演じている。

ヒラタオフィス プロフィールページ
小林涼子 オフィシャルサイト

青春、その定義は曖昧で複雑だ。勇気を振り絞ったはじめての告白、伝えられなかった想い、友人たちとの他愛もない馬鹿騒ぎ、どこにぶつけていいのか分からない葛藤。物心がついてから、僕らは酸いも甘いも経験し始める。その一つひとつを経て、大人の階段を上ってきた。子どもから大人へと移ろいゆく時間。それを青春と呼ぶのならば、大人になった僕らは、もう二度と青春に戻ることはできない。

『大人ドロップ』(2014年4月4日劇場公開)には、僕らが通り過ぎてきたあの頃の思い出がたくさん詰まっている。題材は高校3年の夏。大人を意識し始める微妙な年頃だ。大人になることの答えを求める主人公・浅井由(池松壮亮)。クラスメイトの入江杏(橋本愛)に想いを寄せる浅井の親友、始(前野朋哉)。大人になるために何かと経験を急ぐ女友達の春(小林涼子)。監督・脚本・編集を務める飯塚健が、彼ら4人が抱える複雑な葛藤をときにユーモアを交えながらセンチメンタルに描写している。

『荒川アンダー ザ ブリッジ』『風俗行ったら人生変わったwww』とコンスタントに話題の作品を手掛ける飯塚は、2014年7月からはテレビドラマ『GTO』の演出を担当することが先日発表されたばかり。いま旬なクリエイターの一人だ。そんな飯塚の作品に欠かせない存在となりつつある俳優がいる。『大人ドロップ』にも抜擢された人物、それは野中春役の小林涼子だ。ストーリーの鍵を握る大役に抜擢された、飯塚が信頼を置く女優のひとりである。

今回は『大人ドロップ』の公開を記念して、飯塚と小林の対談が実現した。飯塚と小林の出会いからスタートした二人の思い出話。高校を卒業して間もない当時の小林は、まさに『大人ドロップ』の登場人物たちさながらに、「大人になる」ことと向き合っていた。

Text by Shota Kato Photo by Takuya Nagamine

その表情ができるなら、俳優を辞めないほうがいい。

『大人ドロップ』以前から飯塚監督の作品に小林さんは出演していますが、今回のようにお二人で取材を受けることはありましたか。

飯塚

今回が初めてなんですよ。


小林

だから嬉しいです。

CONTRAST [インタビュー] 飯塚健×小林涼子 | 大人になるということ

そうだったんですね。お二人の最初のお仕事は『Replay & Destroy』という認識で合っていますか。

飯塚

いや、石川智晶さんというアーティストが歌う『戦国BASARA3』のエンディング曲(「逆光」)のMVですね。石川さんご本人出演なしのストーリー仕立てにして欲しいというオーダーで、たしか2010年だったかな。


小林

そうですね。まだ20歳前だったと思います。

どんな内容のMVを撮ったんですか。

飯塚

教室のロッカーに突っ込まれちゃうようないじめられっ子と、彼女を助けてくれる友達がいて。それが中学時代なんですけど、二人は別々の高校になってしまうんです。すると今度は助けてくれた子が虐げられている現場を、助けてもらった子が見かけるんですね。だけど、助けてもらっていた過去があるにもかかわらず、その子は怖くて逃げてしまう。だけど、やっぱり立ち向かうというストーリーのMVですね。


小林

当時のことはよく憶えています。私、眉毛がかなり細くて化粧も派手でしたから(笑)。尖っている時期だったので。


飯塚

めちゃくちゃ憶えてる(笑)。最初からタメ口だったからね。「なんでしょう、このひと…?」って思った。


小林

恥ずかしい…(苦笑)。

だはは。言葉を選ばずに言うと、小林さんにも痛い時代があったんですね(笑)。

小林

これが青春の恥ずかしさってやつですね(笑)。私、高校生の頃にはお仕事していたので芸能コースがある学校に行っていたんです。それもあってあまり青春できずにアップアップしたまま卒業してしまっていて。それからこじれた状態が続いて、19歳からの数年間もモヤモヤと葛藤する日々でした。本当に、その一番酷かった時期に監督とお会いしていて。


飯塚

一番まずい時期に出会ったのだと思いますよ。


小林

人生史上、一番知られたくない時期に出会ってしまいました(苦笑)。

CONTRAST [インタビュー] 飯塚健×小林涼子 | 大人になるということ

そんなにひどかったんだ(笑)。それからはお互いに時間が空くんですか。

飯塚

たまにやりとりをしていた程度ですね。また仕事をすることになるのが『Replay〜』(『Replay & Destroy』)なんです。そもそも、僕は乙一原作の映画『ZOO』の中の「カザリとヨーコ〜」での涼子の芝居がすごく好きだったから、仕事できたらいいなと思ったんです。「逆光」のMVにすごく印象的なカットがあって、それはぜひ観ていただきたいですね。憶えているのは、「その表情ができるなら、俳優を辞めないほうがいいよ。いつかどこかで必ず呼ぶから」と話したことで、うまくいかないときって、腐りそうになることもあるじゃないですか。『Replay〜』は山田孝之くんとか吹越満さんとか、実力のある俳優陣と同じシーンにいることが彼女にとって意味があるだろうと思ったので指名しました。その次は舞台『FUNNY BUNNY-鳥獣と寂寞の空-』になるのかな。

MVの話の中にあった印象的なカットというのは、具体的にはどういったものですか。

飯塚

一回逃げてしまったけど、やっぱり助けに行かなきゃと決意するときの表情ですね。


小林

その当時はすごくお芝居をやっていたわけじゃなかったので、また現場に来られて、すごく楽しくて刺激的だったんです。正直、カメラの前に立つことが久々だったので、どういう風に現場で立ち振る舞ったらいいのかも悩んでしまって。完成した作品を見て、「ああ、お芝居に関わっていたいな」と思ったのがすごく印象に残っています。

なるほど。立ち返る場所になっているんですね。

小林

そうですね。辞めようかなというか、辞めなきゃいけないのかなとちょっとだけ思っていた時期だったので。高校を卒業してからは大学に通っていたんですね。周りがリクルートスーツを着て就職活動を始めた。大人の顔になって、次々に巣立っていく。その中で、「自分は本当にこの仕事を続けていいのかな。本当にこの先、続けていけるのかな」と悩んでいた微妙な時期だったんです。そんなときに飯塚監督から温かい言葉を掛けてもらえたことは、私にとって分岐点になっていて。あのとき、監督に会ってなかったら、俳優を辞めていたかもしれないと思いますし。

CONTRAST [インタビュー] 飯塚健×小林涼子 | 大人になるということ―

なるほど。それからは眉毛もちょっとずつ…。

小林

増えてきましたね!今、すっごくありますよ(笑)。


小林

あはは。大学の友達が大人になっていく中で、逆に私は周りの大人との接し方がわからなくなってしまっていて、「大人は全員敵!」みたいに警戒していたんですよね。「大人になれ」って言われる度に、大人になんて絶対になりたくなかったですし、「大人でしょ?」と言われても、「いや、子どもだし」って歯向かっていました。私、家族に対しての反抗期がなかったんですよ。その分なのか、外の大人に対してはすごくあったんです。だから、大人は敵だと思って、敬語も使ってなくて(笑)。


飯塚

でも、よく考えたらすごいよね。涼子は子役からやっているので、やっぱり変になるところがあると思うんですよ。単純に僕もそうでしたけど、普通の10代はお金をもらわないじゃないですか。お年玉とかお小遣いはあったとしても、アルバイト以外に働いた対価としてお金をもらわない。同級生以外、一つ年齢が上でもすごく大人に感じているのに、彼女たちは普通に仕事しているわけじゃないですか。そしたら、「あれ?この人、昨日と言っていることが違うな」とか、いろんな大人の嫌な面を10代で目の当たりにしたら、そりゃ常時シャッターが閉まってしまうと思うんですよ。


小林

表情は笑っているのに、目の奥が笑ってなかったですね。「大人になれ」と言われてもその人たちを「大人」だと尊敬できなかったり。今考えれば、そんなに悪いものじゃなくて、納得できる部分もありますけどね。

大人っていいな。私もそうなりたいな。

飯塚監督は小林さんの演技の特徴をどのように捉えていますか。

飯塚

普通じゃない節が出てくるんですよ。もちろん特殊なフレーズで台本を書く場合もありますけど、カラオケに例えるならば、一音だけすごく外してくる。ある意味、音痴なんですよね。


小林

あぁ…(笑)。


飯塚

あまりにも変なときは治すんですけど、言い方を換えると、それは他の人にはない彼女だけの個性であって。あとは長い間、僕の作品に関わってくれているので、話が早くてすごく助かる。彼女の場合、台本を渡せば大体のことは済むというか。それがあるから、違う作品の脚本について意見を聞くこともあるんです。何の先入観もない人の意見を聞いて修正していくほうが正しいと思っているので、そのときは友人として協力してもらっていますね。特に彼女の場合は、読み取ってくれるところが沢山あると思います。

CONTRAST [インタビュー] 飯塚健×小林涼子 | 大人になるということ―

台詞の言い回しやテンポに特徴のある飯塚監督の作品に、さらに特別な節を持っている女優さんが関わっているというのは、ある意味すごいですね。

飯塚

これは『大人ドロップ』ではないんですけど、日常会話でもよく『なくなっちゃう』って言うじゃないですか。なんだっけ。


小林

「な(↑)くなっちゃう」(笑)。


飯塚

そうだ。彼女がそれを言うと、僕や周りが「いやいや、『なくなっ(↑)ちゃう』」だから」ってツッコミを入れるっていう。

たしかに、アクセントが最初に来るのは変ですね。東京出身でしたよね?

小林

そうですけど、それが何か?(笑)

いやいや、大丈夫です(笑)。

飯塚

衝撃的じゃないですか?そういう節回しが結構あるんですよ。


小林

「鎮痛剤様っ様だよ」も。


飯塚

あぁ、『大人ドロップ』のオープニングもそうか。これは映画を観ていただくと分かるんですけど、やっぱり変なイントネーションなんですよね。でも、その変な感じが、今回演じてもらった野中春のキャラクターになるかなと。まあ演劇の場合は軍隊のように全部直していきますけど。やっぱり演劇は文化レベルが違うと思いますから。


小林

「なくなっちゃう」を直すのが大変でした。2回に1回は間違えてしまって。

今度は逆に、小林さんから飯塚さんの作風について聞かせてもらえますか。

小林

脚本を読んでいて疑問がないんです。自分が役というより、いち視聴者として普通に読める。あと、いろんな人たちがいる現場で、監督はみんなに同じように接してくれるので、そういう意味でも『なんで?』がないんです。

小林さんの中にあった大人像が崩れていったのは、飯塚監督との出会いもきっかけになっていますか。

小林

そうなんです。監督が本当に面倒見よく、私が腐らないように見ていてくださったので、『あ、大人も悪くない』って少しずつ思えるようになりました。監督の周りでみんなが楽しくお酒を飲んでいる姿を見て、「大人っていいな。私もそうなりたいな」って。監督の周りには、矛盾が多い嫌な大人じゃなくて、やるべきことをしっかりとやっている大人たちばかりですから。

CONTRAST [インタビュー] 飯塚健×小林涼子 | 大人になるということ―

一度、飯塚監督の現場にお邪魔させてもらったことがあるんですけど、緊張感とリラックスしたムードが交互にくるような緩急があったんですよね。。

小林

そうそう。気持ちいい現場だけど、背筋がピンと伸びる緊張感があるんです。監督の現場初日の前日は本当に緊張して、『大丈夫かな…』と少し不安になることもあるんです。『FUNNY~』のときは開演5分前になって、『もう舞台を降りたい!』って思いましたけど、そこに行きたくなる素敵な現場が本当に多い監督ですね。


飯塚

『FUNNY~』のときはひどかった(笑)。演劇の開演5分前のステージ裏にはすごい空気感があって。舞台慣れしている人たちですら、3分前になると独特の雰囲気になるんですけど、涼子は開演3分前になっても衣装に着替えなかったですよ。


小林

(苦笑)もう嫌だと思って。帰れるなら帰りたいって思っちゃったんですよね。


飯塚

なぜか、すごい数のロウソクを焚いていて。


小林

アロマキャンドルを(笑)。


飯塚

さすがに僕も「何やってんだ、着替えろ!」って言いましたからね。


小林

舞台で一緒だった井上和香さんからも『着替えてからやりなさい!』って怒られました(苦笑)。親しい人や家族に「緊張する」って話したら、「これ焚くと安心するから」ってキャンドルを持ってきてくれたんですよ。とりあえず全部並べて自分に言い聞かせようとしたんですけど、全然安心しなかったっていう。そのときの私の役はストーリーテラー的な部分があって、台詞のタイミングをずらすと全体のリズムが崩れるかもしれなかったんです。特に「D・A・K・E・D・O」という台詞を噛まずに言えるかが毎日すごく不安でした。初めて台本を読んでわからなくなる夢を何度も見て、寝ている間も頭の中でずっと台本を読んでいましたね。だから、寝言でも台詞を言っているのが分かって、起きてしまって。舞台の期間中はそれがずっと続いていて、もう舞台に立ちたくないと思っていました。でも、舞台が終わると、「あぁ、やってよかったな」ってすごく思えて、今もみんなで集まると、当時のことを鮮明に思い出すんですよね。


飯塚

『FUNNY~』で女子高生役をやっていた子がいるんですけど、当時18歳だったのかな。彼女が20歳になったら、みんなで酒を飲もうと話していて、最近実際にやったんですよ。そういうのが嬉しいじゃないですか。