CONTRASTは、創(造)る行為で私たちを魅了する人物にフォーカスし、彼らとの対話から「ものづくりの温度」を伝えるウェブマガジンです。

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CONTRAST [インタビュー] 僕が見せたい植物

僕が見せたい植物

小田康平(プロフィール)

小田康平

プロフィール 小田康平
1976年、広島生まれ。世界中を旅する暮らしをしていた20代の頃、旅先で訪れたパリで、フラワーアーティストがセレクトショップの空間演出を手掛ける様子に感動。帰国後、生花と観葉植物による空間デザインに取り組むようになる。数年がたち、画一的な花や植物での表現に限界を感じ始めていた頃、ある世界的アートコレクターと出会い、納品後に傷ついた植物を見て発した彼の一言、「闘う植物は美しい」に衝撃を受ける。以来、植物選びの基準を、整った美しさから、『いい顔』をしているかどうかに変える。独自の視点で植物を捉え、美しさを見出した一点物の植物を扱うことを決心し、2012年、独自の美しさを提案する植物屋「 叢 - Qusamura - 」をオープンした。

「 叢 - Qusamura - 」ウェブサイト

「いい顔してる植物」をコンセプトに、植物の独自の美しさを追求する植物屋「叢 – Qusamura – 」をご存知だろうか。

叢が扱う植物は一般的な花屋とは一線を画する。そのラインナップはサボテン、多肉植物がメインだが、例えば、茶色く変色したサボテンがあるとすると、それは一般的にはあまり良しとされない。光沢がある肌触りの良いサボテンに価値があると見なされているが、前者のサボテンは、植物としては至って健康にもかかわらず、朽ちたように目に映る。いわば、みにくいアヒルの子のような存在。でも叢にとっては、とても輝いて見える魅力的な植物なのだ。一見違和感のある植物でも、その裏側にある背景やストーリーが気になってしまう。そういった奥行きと深みを感じさせる植物を、叢では「いい顔してる植物」と呼んでいる。

今回はlimArtで開催中のエキシビション『Qusamura temporary shop at limArt vol.2 ―植物も個性の時代―』を訪れ、店主の小田康平にインタビューを行なった。植物との出会い、叢のこれまでとこれからなどを中心に、新進気鋭の植物屋の活動に迫る。
撮影協力:limArt

Text by Shota Kato Photo by Takuya Nagamine

僕が欲しがっているサボテンは、価値が無いとされてきたもの

まずは叢以前の小田さんについて伺いたいのですが、ご自身にとって植物はずっと身近なところにあったのでしょうか。

小田

実家が花屋だったので、小学生の頃にクリスマスのイベントとかで一緒に花をいじったり、身近ではあったんですけど、花屋になる気持ちは全くなかったんです。ただ、普通に大学まで行って就職しても、ちょっとパンチが弱いなと思って、海外にでも行こうと。それもノープランで(笑)。

それは大学を卒業してから?

小田

そうですね、99年のことですね。トルコで大地震があって、旧ユーゴスラビアで空爆があった頃なんですけど、元々雑貨とかインテリアとかが好きで、旅先でそういうお店によく行ってたんですよ。そのときに、パリのある雑貨屋さんで、植物をかっこよく飾っているおじさんがいたんですね。そのお店がすごく好きで、パリにいる間はほとんど毎日通ってました。

ちなみに、なんというお店ですか。

小田

コンランショップです。そのおじさんは、ショップのスタッフに指示を出して、空間全体をデザインしてました。そういう場面を何度か見て、日本の花屋と地位というか位置がちょっと違うなと感じて。そこではじめて、花を扱うってかっこいいなと思えて、花屋で一旗揚げようと。それから日本に戻って、親の店に入ったんですよ。

叢の創業が2012年1月ですが、それまでは親御さんの花屋さんで修行していたんですか。

小田

いえ、親の店からは3年前に独立して、叢とは別の花屋をやってたんです。それも自分の親がやっている店に一番近い花屋が僕の店だったっていう(笑)。

一番近いところの競合が家族ってすごいですね(笑)。

小田

その時の独立のきっかけは、ある分野でとても著名な方に、植物の見立てを面白いと思ってもらえたことです。その方に、半ば強引に独立のための場所も紹介され、あれよあれよと色々なことが決まっていった。たった半月ほどで。

CONTRAST [インタビュー] 小田康平 | 僕が見せたい植物―

信じられないスピード感で独立が決まっていったんですね。

小田

はじめは親の花屋とお客さんを取り合うかもしれないから、やるつもりはなかったんですけど、場所を見たらすごく良いところで、即やるって決めました(笑)。

人との巡り合わせが大きかったんですね。

小田

そうですね。驚きつつも、楽しい、面白いという気持ちの方が強くて。店を持って、自分で全ての植物を選べるようになりました。当時から、切り花よりも土付きの植物が好きで、色々と集めていたんですね。すると、あるとき、お店に世界的なアートコレクターが来られて、その出会いを通して植物の見方が変わったというか。その方が、輸送中に自分のトゲで傷ついた植物を見て「闘う植物は美しい!」って言ったんです。花屋の常識からすると、傷ものみたいなことになるんですけど、「そんな、アートを見るような視点があるんだ!」と新鮮で。このコレクターの方との出会いは、叢を立ち上げる大きなきっかけになりました。

叢以前にやっていた花屋も、今のようにサボテンや多肉植物に特化していたんですか。

小田

いえ、切り花が7割、土付きの植物が3割ぐらいでしたね。土付きの植物は今に近いスタイルで集めていました。東海地方や九州を回って、面白い植物を自分で集めてきては、並べていましたね。

植物収集の旅に出る際は、どんな場所に行くんですか?

小田

農家や愛好家が全国に散らばってるんですね。最初は、僕はサボテンに詳しくなかったので、仕入れるところさえも分からなかったんです。だから、はじめは花屋の時に唯一知っていた有名なサボテン農家が愛知県にあって、そこで教えてもらいました。サボテン業界は広い世界ではないので、「おすすめの農家さんってありますか?」って聞くと、数珠繋がりになっていくんですよ。

なるほど。口コミや紹介が多いんですね。

小田

そうですね。飛び込み半分、紹介半分みたいな。飛び込みも結構受け入れてもらえることが多いですよ。僕が欲しがっているサボテンは、農家ではあまり価値の無いものなんです。例えば、茶色くなってるサボテンがあるじゃないですか。そういうものは、普通、あまり良しとされない。ツルッとピカッとしているサボテンが綺麗だし、価値があるという世界なんですね。植物としては健康なんだけど、朽ちて見えるというか、要は不細工なサボテンは、農家にとっては価値が低いわけですよ。でも僕にはとても輝いて見える。だから、すごく話がまとまりやすいというか。べっぴんのサボテンと不細工のサボテンは、表面だけを見ると、べっぴんの方がきれい。でも、一見不細工でも、その奥には背景やストーリーがあるかもしれない。そういった厚みのある植物を僕は美しいと思うんです。

CONTRAST [インタビュー] 小田康平 | 僕が見せたい植物―

それぞれの枯れ具合には時間が含まれていますよね。

小田

そうそう。そういったものが美しいなと僕は思っているんです。例えば人間でも、美人は美人でいいんですけど、パッと見が美しいだけで、もし中身が空っぽだったら、それはつまらないじゃないですか。だけど、見た目はもしかしたら不細工かもしれないけど、開けたらすごく中身がいっぱい詰まっている。例えば、経験があったり、話が面白かったりとか。それは喋ってみないと分からないですよね。そういう人って楽しくて、かっこいいじゃないですか。それを植物に当てはめて、中身のある植物となると、僕にとってはここにあるような「いい顔してる」植物になるんですね。

なるほど。小田さんは植物の見方が農家の方たちと全く異なるんですね。

小田

そうですね。農家さんにとってのマイナスが、僕にとってはプラスになることもあるというか。例えばアフリカから、多肉植物のイモを輸入すると、色々な形のものが入って来るんですよ。農家さんが欲しがる形のイモと僕が欲しがる形のイモはまるで正反対なので、彼らは要らないものを僕が買うみたいなことが起こる。僕が選ぶ個体には背景があるから、そこに価値が生まれるし、農家さんは新しく売れる場所ができる。そうして、お互いに良い関係が作れるというか、そういうものが求められているんですよね。

CONTRAST [インタビュー] 小田康平 | 僕が見せたい植物―