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CONTRAST [インタビュー] 向井秀徳のお噺

向井秀徳のお噺

向井秀徳(プロフィール)

向井秀徳

プロフィール 向井秀徳
1973年生まれ、佐賀県出身。1995年、NUMBER GIRL結成。99年、「透明少女」でメジャー・デビュー。2002年解散後、ZAZEN BOYSを結成。自身の持つスタジオ「MATSURI STUDIO」を拠点に、国内外で精力的にライブを行い、現在まで4枚のアルバムをリリースしている。また、向井秀徳アコースティック&エレクトリックとしても活動中。2009年、映画『少年メリケンサック』の音楽制作を手がけ、第33回日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。2010年、LEO今井と共にKIMONOSを結成。2012年9月5日、ZAZEN BOYSの4年ぶりとなるニューアルバム『すとーりーず』を発表。著書に『厚岸のおかず』。

ZAZEN BOYS
向井秀徳(ヴォーカル、ギター、キーボード)、松下敦(ドラム)、吉田一郎(ベース)、吉兼聡(ギター)
向井秀徳・ZAZEN BOYS 公式サイト

前作『ZAZEN BOYS 4』から4年ぶり。向井秀徳率いるZAZEN BOYSが、待ちに待ち焦がれた5枚目のフルアルバムをリリースした。

タイトルは『ZAZEN BOYS 5』…ではない。まさかのオール平仮名で『すとーりーず』と銘打たれている。さらに言えば、これまでのZAZEN BOYSの作品で統一されてきた英文字の曲タイトルも一切なし。ボウルにいっぱいのポテトサラダが食いてえ」(「ポテトサラダ」)の一節も含めて、視覚に飛び込んでくる文字情報だけで判断すると、「一体どうした、向井秀徳!?」と問いただしたくなるのは無理もないだろう。

しかしアルバムの中で鳴っている音像は、たしかにZAZEN BOYSそのものである。幾度のセッションを経て鍛え上げられたソリッドでタイトなバンドアンサンブル、『ZAZEN BOYS 4』で一つの完成形を迎えたシンセや打ち込みを駆使したダンスミュージック的アプローチなど、これまでに培ってきた一つひとつの表現がこの『すとーりーず』に凝縮されている。その意味では、現時点におけるZAZEN BOYSの集大成的な作品と捉えられるのではないだろうか。

果たして今、向井秀徳とZAZEN BOYSはどこに向かおうとしているのか?マツリスタジオにて語る。

Text by Shota Kato Photo by Takuya Nagamine

自分で録音、ミックスして、リリースするといったスタイル。

今回の『すとーりーず』というアルバムは、これまでの作品の中で、最もリリース期間が空いた作品になりましたよね。前作の『ZAZEN BOYS 4』のリリースから4年かかった経緯を、まずはお願いできますか。

向井

自分で録音、ミックスして、リリースするといったスタイルでやってるんですけど、このやり方っていうのは、全部自分でスケジュールを設定しなければいけないんですね。録音をするにしても、いつ頃リリースするのかっていうね、いつ何年の何月何日水曜日にリリースすると決めないと、そこから逆算して、いつからレコーディングするんだと。その締め切りを作らないとできないんです、私の場合。

CONTRAST [インタビュー] 向井秀徳|向井秀徳のお噺―

ご自身で締め切りを設定して、そこに向けて動き出すんですね。

向井

そうなんです。これが誰か、レコード会社とかに所属していたら、担当者から「ここでリリースする。だからここまでに用意してくれ」と締め切りが出てきます。

はい。

向井

でも自分でやってるもんで、なかなか設定したがらないんですよね。重い腰が上がらないっていうか。気付いたら4年経っていた。作品を作る時は、ある程度集中して取り組む期間が必要なんですけど、その期間がなかなか取りづらかったっていうのもあるね。ライブ活動も継続してやってまして、断続的にはバンドで曲作りはしてたんですけど、ちゃんとレコーディングして形にしようっていう期間がなかなか取れなかったんで。そのスケジュールを取れば、制作期間というのも取れるんだけど、そういうスケジューリングをあんまりしないまま、やっておったら4年経っていた。ただライブ会場でのお客さんの「まだ新作出ないのか」っていうね、だんだんそういうムードが漂ってくるのが分かるわけですよ。「こりゃ、マズいな」と。

なるほど(笑)。

向井

そう思いましてですね、そろそろやるかと。特に『ZAZEN BOYS 4』は、自分の中で手応えを持った作品だったんですよ。

打ち込みの曲やシンセの曲が印象的なアルバムですよね。

向井

新機軸の部分もあったと思うんですけど、ただその打ち込みの曲だろうが、シンセの曲だろうがね、ライブでそれをZAZEN BOYSで演奏していくことによって、どんどんZAZEN BOYSの肉体性、生々しさが増幅されていったんですね。そこで『ZAZENBOYS 4』という作品をずーっとライブでやっていて、どんどん曲が血肉化していったわけです。また曲が進化していって、ZAZEN BOYSの曲がどんどん強化していってね、それをずっとやってたら4年経ってたということも言える。でも、いい加減ライブのセットリストも固まってきてるし、お客さん的にはね、「またこの曲やってるのか」と。「またこの曲やってるのか」っていうのを、こっちは「ずっとやるよ」と(笑)。

ははは。

向井

「またか」って言われても、それはしょうがないよね。「この曲好きなんだからしょうがねえだろ」みたいなことしか言えないっすね。

CONTRAST [インタビュー] 向井秀徳|向井秀徳のお噺―

レコーディングとミックスをこのマツリスタジオで行っていますよね。

向井

1stアルバムは、今回と同じマツリスタジオでレコーディングを全部しました。でも、テンションでいったから、すごい早かったですね。それ以降は、外のスタジオに入って、録音もベーシックな録音をして、マツリスタジオでミックスをするっていう。外のスタジオで録音するときはスケジュールが決まってるからね。何日間で終えなければならないっていう締め切りがあるわけだよ。だから、非常にクイックに作業を進めるわけです。それで今回は、やっぱりマツリスタジオでやってましたから、時間はずーっとあるわけですよ。ずっとダラダラやってる。…ダラダラという言い方は悪いね、ずーっと突き詰めていってしまう。

試行錯誤を重ねていくというか。

向井

だね。まぁ、特にアレンジの面だったり、ギターコードのアンサンブル、リズムの絡み合い方とかに関して、色んなあれやこれやをやっていたんですね。色んなアプローチが出てくるもんだから、そうやってたら「これもいい、あれもいい」っていうふうになるわけですよ。バージョンがいっぱい増えていっちゃうんですよ。

締め切りのお話がありましたけど、例えば、担当者さんがいて、締め切りが決まる場合と、ご自身で締め切りを決める場合ですと、作品に向かう気持ちは違いますか。

向井

うん、どこか焦りにも似たジリジリとした感覚があるよね。

作品のクオリティに影響をもたらす部分ってありますか。

向井

あるとすれば、ちょっと肩肘を張った作品になってくるね。いい意味で「やらねばならない」みたいなね。

あぁ、なるほど。

向井

だから今回は自分でも思うんですけど、結構肩の力が抜けてるなぁと。今まで、よりこう変なところに力が入っていたのを、なんていい言い方をすればいいのか、「丸い」というかね。「丸い」と言っても、柔らかいというわけじゃなくて。

「角が取れた」ともまた違うと思っていて。

向井

変な力は入ってないような気はしますね。力が入ってるのは、ほんとにZAZEN BOYSを始めた時ぐらいの頃、1stアルバムにそれが刻まれてるんですよ。新しくバンドを始めるものだから、これからどうなるのかっていう不安感と、やってやるぞっていう興奮。これが綯い交ぜになった気分で、如実に滲み出ているんですよね。

初期衝動という言葉に言い換えられるとも思います。

向井

そうだね。

CONTRAST [インタビュー] 向井秀徳|向井秀徳のお噺―

自分の個性をどう活かしていくか。

『すとーりーず』を聴かせていただいて、『ZAZEN BOYS』から『ZAZEN BOYS 4』までにやってきたことを一度ここで整理して、地ならしをした作品のように感じたんですね。リセットという表現が正しいか分からないですけれども、一度フラットと言いますか、更地に直したような感じを受けました。それで、また新しい表現に向かって行こうとする分岐点的な作品のように感じているんですね。

向井

なるほどね。新しいことをしようとはあまり意識してないですけどね。でも言ってる意味は分かりますね。バンドサウンドに戻ったっていうのは、たしかにそうですからね。それもやっぱり『ZAZEN BOYS 4』を作って、『ZAZEN BOYS 4』の曲をライブで進化させていくことによって、ZAZEN BOYSのバンドサウンドの個性っていうのかね、そういうものを自分で再認識しましたし、自分の個性をどう活かしていくかっていうことを考えましたね。今回の制作においては。

CONTRAST [インタビュー] 向井秀徳|向井秀徳のお噺―

『ZAZEN BOYS 4』の曲に対しては、ライブでフィジカル的な要素が加わったことで、また新たなZAZEN BOYSの一面と言いますか、醍醐味、ダイナミズムを再認識できた、と。

向井

そうですね。ええ。

デモ作りを去年の頭に始められて、今年の頭からレコーディングに入られましたよね。

向井

本格的にね。この期間はもうやるぞと。制作するという目標を立てて。

制作の主導権は向井さんが握っていらっしゃるという認識なんですが、例えば『すとーりーず』を作るにあたって、メンバーの方々に対して、どんなイメージを伝えたり、共有されてるんですか。

向井

コンセプトとかを最初に思い描いてスタートはしないんですよ、毎回。ずっとその一つのアイデアとなるパーツ、リフだったりリズム、そういうところからスタートして、後は感覚で、これにどういうコードをぶつけたら、どんなことになるんだろうというね、このリフにこういうビートを乗っけたらどうなるんだろう、っていう試行錯誤をやっていくうちにだんだんその風景が表れてくるっていうか、それで曲になっていく。で、一つひとつの曲が集まってきたら、作品の全体図を、全体の匂いみたいなものが漂ってくる。結果的にこういう世界が出来上がるっていう。毎回それはそうですね。作業を進めるにあたっては、ギターフレーズを作る際にもっと抽象的に、もっとギタリストに…。

何かキーワードを投げかけるんですか。

向井

なんて言うんですかね…。南極大陸の昭和基地で、隊員がもう1年半ぐらいその基地にいて、もうストックする食糧もなくなってくる。

CONTRAST [インタビュー] 向井秀徳|向井秀徳のお噺―

はい。

向井

で、大量にダース×10ぐらいで持ってきた「出前一丁」はなくなっていたと思いきや、棚の隅に1個だけ残ってるのを発見してしまった。そのときの喜びをギターフレーズで表現せよ、みたいなね。

おぉ…(笑)。かなり具体的ですね。

向井

具体的だけど、何がなんだかわからないっていうね。そんなこと言われても、どう弾けって言うんだ、みたいな(笑)。

CONTRAST [インタビュー] 向井秀徳|向井秀徳のお噺―