CONTRASTは、創(造)る行為で私たちを魅了する人物にフォーカスし、彼らとの対話から「ものづくりの温度」を伝えるウェブマガジンです。

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CONTRAST [インタビュー] だから芸人はやめられない。

だから芸人はやめられない。

マンボウやしろ(プロフィール)

マンボウやしろ

プロフィール マンボウやしろ
本名・家城啓之。1976年生まれ、千葉県出身。1997年にお笑いコンビ・カリカを結成。2011年のコンビ解散を経て、2012年1月よりマンボウやしろとしてピン芸人の活動をスタート。

マンボウやしろの「山本寛斎に追いつけ追い越せ!~情熱編~」
吉本興業

一度止まった時間を再び進めることは難しい。もう一度立ち上がるためには体力と精神、そして覚悟が必要だ。

コンビ芸人・カリカは2011年を以て解散した。ボケ担当の家城啓之はマンボウやしろに改名して、今はピン芸人として新たなキャリアを歩み始めている。ピン芸人に転身して約5ヵ月になるが、これまでの間に僕は大きなトピックが二つあったと捉えている。

ひとつは、ラジオ番組『SCHOOL OF LOCK!』を3月で降板したこと。番組の中でやしろは、芸人としてではなく、ひとりの大人として10代リスナーの悩み相談と真摯に向き合ってきた。6年半も務め上げた「やしろ教頭」の退任は、ピン芸人としてのけじめなのか。15年におよぶ芸歴の中でも数少ない節目だったに違いない。

もうひとつは4月に放送されたバラエティ番組『ブラマヨとゆかいな仲間たち アツアツっ!』での一幕。やしろは信じられない宣言をした。なんと「2016年にサイコロを振って、1の目が出なかったら芸人をやめる」と誓ったのだ。あまりにも馬鹿げていると思ったけれども、後日YouTubeにアップされている立派な襲名演説を見て、僕はその背景に並々ならぬ覚悟を感じた。マンボウやしろこと家城啓之はどんな人物なのか。彼のことをもっと知りたくなった。

Text by Shota Kato Photo by Masatsugu Ide

ラジオの放送が終わると、しょっちゅう泣いてました。

マンボウやしろの襲名式を拝見させていただいて、立派な姿に感動しました。是非お会いしてお話ししてみたかったです。

やしろ

ありがとうございます。

5月でピン芸人になって5ヵ月が経ちますよね。

やしろ

そうですね。

コンビの時と比べてどうですか。気楽な部分と息苦しい部分が顕著だと思うんですが。

やしろ

ほんと仰るとおりで、コンビの時の×2,3倍ずつぐらいというか。コンビの時から小話とかやっていたのでピンで呼ばれることはありましたけど、今は相方との掛け合いがなくなって、ただ単に小話をすることが多くなりましたね。

CONTRAST [インタビュー] マンボウやしろ|だから芸人はやめられない。

ネタってどうやって作っているんですか?

やしろ

いつも考えているというか、思いついたものをどんな時でもストックして。時間のある時にそれを文字に起こすんですけど、僕は家でやりますね。ノートに書いたりパソコンに入力して保存したり。

じゃあ今は、ゼロベースからネタを作っているわけですね。

やしろ

そうですね。やっぱり芸人ってネタをやってなんぼだと思うんで、十数年やってきたネタを一個も出来なくなった時点で持ち歌がなくなるのと同じなんですよね。でも、わりと自分のことを芸人と思ってきていないところもあるんですよ。今は喋ることが仕事だと思っていて。

なるほど。なかなか芸人の方にお会い出来る機会なんてないので色んなことを聞かせて下さい。改めてよろしくお願いします。

やしろ

こちらこそ、よろしくお願いします。

やしろさんは芸人としての活動以外に、今年の3月まで『SCHOOL OF LOCK!』というラジオ番組で「やしろ教頭」を6年半も務めてきましたよね。

やしろ

ラジオの仕事は大変だったイメージが強いですね。小さい時から「定時の仕事に就けないな」という気持ちがあったんで、なんとなくお笑いに進んだんですよ。『ニュースステーション』の久米宏さんを見て「夜の10時に仕事をするってすごいな」って小学生ながらに思っていたんですけど、気が付いたら自分も同じ時間帯に番組をやっていて。ラジオが始まってからはそこの違和感というか、毎日決まった時間に同じ所に行かなきゃいけないじゃないですか。そういうルーティーンをすること自体が苦痛でしたね。

『SCHOOL OF LOCK!』のリスナー層って10代が多かったと思うんですけど、これってお笑いのファン層にも近いんじゃないかなと思っていて。

やしろ

あぁ、そうですね。驚いたのは、思っている以上に10代の子がデリケートだったんですよ。いじめとか家庭内暴力とかの問題から始まって、自殺をするしないとか、そういう深刻な問題がたくさんあって。

CONTRAST [インタビュー] マンボウやしろ|だから芸人はやめられない。

それはリスナーのメールやFAXから?

やしろ

そうですね。番組が始まった当初はなかったんですけど、一年経たないうちにそういったメールやFAXがどんどん届いて。音楽番組という認識はほとんどなくて、10代の子の悩みを聞いていたというイメージですね。スタッフの人は新曲を掛けてリスナーに音楽を届けるっていう働きはあるんですけど、基本的には聴いている子たちが楽しくなるとか、力になるとかっていう選曲なんで、本当に流行っている音楽を掛けるみたいなことはしないんですよ。だから5人以上のグループの曲は、下手したら一年に一回掛かるかどうか(笑)。

良い感じの伏せ字が(笑)。ラジオをやったことでどんな影響があったのか聞かせてもらえますか?

やしろ

ラジオの仕事を始めたのが芸歴9年目だったと思うんですけど、僕は人のミスを笑ったり、多少ズルをするパワーゲームみたいな芸人の世界で生きてきたんで、急にそれをしちゃいけないところに飛び込んだんですよね。嘘をついちゃいけないとか、放送外のところで嘘をついたりずるいことをしたりしていると、放送の時に言えなくなるんですよ。それがすごく辛かったです。だから番組にはだいぶ影響されましたね。

悩みを抱えるリスナーに対してどんな言葉を掛けるようにしていましたか?

やしろ

上手く言葉を出せなかったですね。僕は芸人なんで相談を受けるっていうことに慣れていなくて。

戸惑いがあったんですね。

やしろ

大きかったですね。たしかラジオって14秒間無音が続いたら放送事故なんですけど、僕と一緒にやっていた俳優の山崎樹範さんで、二人とも何も喋れない放送事故を二回ぐらい起こしたことがあって。リスナーに何の言葉を掛けていいのかまったく想像がつかないというか、うかつに喋れなかったです。放送中にリスナーのお父さんからメールが届いたことがあって、トラック運転手の方なんですけど息子さんが病気で入院していて、息子さんがラジオを聴いているから仕事中にラジオを聴くようにしたんですね。「お見舞いに行った時に番組の話を出来るから」っていう便りをくれていたんですけど、息子さんが亡くなってしまって。一言でいいから「お疲れさま」って言って欲しい。お葬式でラジオを流したいからと。

CONTRAST [インタビュー] マンボウやしろ|だから芸人はやめられない。

その相談はどうしたんですか?

やしろ

もうどうして良いか分からなくて。スタッフさんは強い人たちで、それを言うことで今日楽しく聴いていたリスナーが無駄に悲しむのは良くないという意見もありましたけど、何の説明もなしにその子の名前と「お疲れさまでした」という言葉を言って放送を終わったんです。芸人なんで放送中は絶対泣かないようにしていたんですけど、その後は放送が終わってからしょっちゅう泣いてました。よく分からないけど泣いていて。

芸人としての仕事にも影響しそうですね。

やしろ

その後に舞台の稽古とか大食いのロケとかがあるんですよ。そこの精神バランスが始めの2年ぐらいはとれなくて、帯状疱疹が3,4ヵ月に1回は出てましたね。「なんでこれやってるんだろう?」っていう思いはしょっちゅうありました。

どうやって解決していきましたか?

やしろ

スイッチが切り替わらないままラジオ局に行くんですけど、テレビのロケだと「あぁ、芸人って因果だな」って思うんですよ。カメラがあったら勝手にスイッチが入ったり、スタッフさんの一人が優しかったりすると、「この人のやっている仕事だからちゃんとしなきゃ」とか、そういう気持ちはすごくありましたね。でも自分のスイッチが入り切らないまま行った現場で、後輩の芸人が態度悪かったりしたら、×5倍ぐらいでイライラしたり。

それはそうですよね。

やしろ

すごく10代の子たちがピュアだったから、丸っきり価値観が変わりましたね。すごく良い経験だったなと思います。芸人として大きな経験かは分からないですけど。平日の夜は僕がずっと仕事をしている状態だったので、相方はその流れでやめましたし。芸人としたら持たなくても良いピュアな部分だと思いますけど、ものを作ったり、結婚したり子どもを育てたりする人として、引き戻してもらえて良かったなという感覚はすごくありますね。

チヤホヤされたい、モテたい、お金が欲しい。

芸人の世界での話がありましたけど、芸人としてのキャリアを積んでいくと、どこか麻痺してくる部分があるんですか?

やしろ

あると思いますね。今は売れるのに昔よりも時間が掛かっていたり、同じ芸人っていう括りの人たちと一緒にいると、芸事が大事だったり、自分のために頑張ったりとかは当たり前なんですけど、30歳を過ぎて自分のためだけに頑張ろうとする人は頭がおかしいと思えるようになったというか。

たしかに。中にはそういう人もいるんですか?

やしろ

います、います。でも逆に僕は羨ましいですよ。芸人として売れるって何かと言ったら、チヤホヤされたい、モテたい、お金が欲しいっていう20歳前後の至極当然な目的なんです。家族のいる方は別ですけど、それを保ち続けている40代がいたら病気だと思うんですよ。だからいつまでも初心を持って芸人を続けることって美学はありますけど、まったくそんなことは思っていなくて。

年齢とともに目的意識が変化することは当たり前だと。

やしろ

そうですね。独身の頑張っている後輩を見ると「こいつのエネルギーは何なんだろう?」って。ある意味、芸を究めたくてやっているならいいですけど、今のお笑い会ってそういうわけでもないので。

意外と年齢いってるんだなっていうのはありますね。

やしろ

停滞している状態というか、大分順番待ちが進んでいる感じが。どの業界も一緒だと思いますけど、7割ぐらいはメンタルスポーツだと思いますね。もちろんテクニックもあると思いますけど、何時に呼ばれても先輩のところに行くとか、自分が好きな番組を見続けるとか、一人でいたくても芸人といるとか、そういう割り切りというか覚悟みたいなものの積み重ねが技術を上げて行くと思うんで、ある程度の技術があってもその先はメンタルスポーツですね。だから全然華やかじゃないですよ。売れてる芸人の方は違うかもしれませんけど。

CONTRAST [インタビュー] マンボウやしろ|だから芸人はやめられない。

人を傷つけてもしなければいけないことの踏み込みが甘くなる。

ラジオの仕事を通じて、ミュージシャンの方たちとのやりとりが増えましたよね。普段と違ってある意味、新鮮だったと思うんですが。

やしろ

RADWIMPSの野田洋次郎はすごい才能だなと思いましたね。例えば小中学校から高校、社会人になるまでに、わりと大差なく皆が色んな経験をしてきていて、その中で考えることってそんなに変わらないと思うんですけど、彼は40代が分かっていることを20代で分かっている感じなんですよね。咀嚼が早いのか良い出会いが続いているのか。たまに思うんですけど、人間の体の中には元々とんでもない量の愛情が埋蔵されているなって。それは反響とかアクシデントですごい引き出され方をするんでしょうけど、一生涯そんなに出ない人もいると思うんですよ。彼はそれが早めに出ちゃった人で「あぁ、こういうのを才能って言うんだろうな」と思いました。かなり年下なんですけど、素直にカッコいいなと思えたし、すごく仲良くなれましたね。彼と話していると純粋に楽しいというか。

逆に芸人の方とは真剣な話をしないんですか?

やしろ

芸人といるとあまり真剣な話にならないんですよ。お金が、お姉ちゃんが、次どこ遊び行こうかとか(笑)。ずっと男子校なんですよ。でもめちゃくちゃ面白いです。

CONTRAST [インタビュー] マンボウやしろ|だから芸人はやめられない。

女性の芸人さんと一緒にいることってないんですか?

やしろ

僕はないです。椿鬼奴ぐらいですね。後輩なんですけど年が上だったんでババア扱いして遊んでいるっていう(笑)。でも、どこか品があるじゃないですか。

それすごく分かります(笑)。ラジオの仕事をやったことで、芸人さんとの付き合い方って変わりました?

やしろ

自分がいっぱいミスする人間ですし、僕の周りにもいっぱいミスする人間がいますけど、10代の子たちって皆怯えてるんですよね。ミスをしたらもう駄目みたいな雰囲気があって。何年もリスナーの話を聞いていたら、大人の世界にある「失敗したらすごく叩かれる」という風潮が下の代まで蔓延していて、本当に怖いことだなと思って。だから、ミスしてもやりたいことをやろうと思うようになりましたし、後輩に対してもミスを許さないと、という気持ちにもなりましたね。昔は「あいつはあんな奴だから」みたいに文句を言って遊ばないことはありましたけど、ラジオを始めてからは文句を言っても遊ぶというか。今は安心した状態で健全かなと思います。

なるほど。ラジオをやめるというのは、やしろさんから切り出したんですか?

やしろ

そうですね。

これまでの話を聞いていると、やめる理由が見当たらないんですよ。

やしろ

元々はコンビだったんで早い段階からやめようかなとは思っていましたけど、人の話を一定量聞いたら良くないなと思ったんですよ。弁護士さんとかお坊さんとかお医者さんとか、そういった職業の人たちが特殊であって、だから「先生」って呼ばれているんだろうなって思いましたし。あんまり相談を受けちゃうとやられてしまうというか、ある程度は人を傷つけてもしなければいけないことの踏み込みが甘くなるというか、「危ないな」という感じはしていました。お坊さんでもないのにお坊さんになってしまうって。

CONTRAST [インタビュー] マンボウやしろ|だから芸人はやめられない。

リスナーに神格化されるということですね。

やしろ

そうですね。「人を傷つけないように」という気持ちが芽生えちゃうんで、それは違うなと。

なるほど。

やしろ

初めの頃は10代の子たちに話し掛けられるのが嫌だったんですよ。「いや、俺カリカだから教頭じゃないし」みたいな反発がありました。急に連れ子が出来て異常になついて「いやいや、来んな来んな」というか。そういう感情があったんですけど、だんだんリスナーを生徒として受け入れられるようになって。地震の時に東京FMもほぼ報道番組になったんですけど、僕らの番組だけ14日の月曜からやるっていう連絡が来て。「嘘だろ?!」って思いましたし、何も言うことがないと言ったんですけどやると。日頃ニュースで自殺しちゃう中高生とかを知ると、自分のラジオを聴いてたんじゃないかって思うんです。それで地震があった時に、聴いていた子が何人か死んでしまったかもしれないって思ったんですよ。心配で仕方なくて。ラジオが体育館でずっと流れているって聞いていましたし、地震から二ヵ月ぐらいの間ですごくメンタルが強くなりましたね。