CONTRASTは、創(造)る行為で私たちを魅了する人物にフォーカスし、彼らとの対話から「ものづくりの温度」を伝えるウェブマガジンです。

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CONTRAST [インタビュー] 等身大で求め続ける「はじめての予感」

等身大で求め続ける「はじめての予感」

THA BLUE HERB(プロフィール)

THA BLUE HERB

プロフィール THA BLUE HERB
ラッパーILL-BOSSTINO、トラックメイカーO.N.O、ライヴDJ DJ DYE の3 人からなる一個小隊。1997 年札幌で結成。以後も札 幌を拠点に自ら運営するレーベルからリリースを重ねてきた。'98 年に1st ALBUM「STILLING, STILL DREAMING」、2002 年に 2nd ALBUM「SELL OUR SOUL」を、'07 年に3rd ALBUM「LIFE STORY」を発表。'04 年には映画「HEAT」のサウンドトラックを 手がけた他、シングル曲、メンバーそれぞれの客演及びソロ作品も多数。映像作品としては、ホーム北海道以外での最初のライ ヴ「演武」、結成以来8 年間の道のりを凝縮した「THAT'S THE WAY HOPE GOES」、'08 年秋に敢行されたツアーの模様を収 録した「STRAIGHT DAYS」、そして活動第3期('07年~'10 年)におけるライヴの最終完成型を求める最後の日々を収めた作品 「PHASE 3.9」を発表している。 HIP HOP の精神性を堅持しながらも楽曲においては多種多様な音楽の要素を取り入れ、同時にあらゆるジャンルのアーティス トと交流を持つ。巨大フェスから真夜中のクラブまで、47 都道府県に渡り繰り広げられたライヴでは、1MC1DJ の極限に挑む音 と言葉のぶつかり合いから発する情熱が、各地の音楽好きを解放している。 表立った活動を全て休止、列島激動の2011 年は沈黙を貫き、楽曲制作に専念していたが、2012 年元旦に自身のウェブサイト にてシーンへの復帰、活動第4 期の幕開けを宣言、シングル「STILL RAINING, STILL WINNING / HEADS UP」を発表した。
THA BLUE HERB RECORDINGSウェブサイト

抗うことすらできない甚大な災害があった2011年。この日本は窮地に立たされたと言っても過言ではない。あの波が奪い去ったものは、とてもとても大きかった。拭えない焦燥感や悲壮感に苛まれ、元の生活まで戻るのは時間がどのくらいかかるかわからない。 しかしそれでも、私たちは各々の想いを胸に前を向く。

あれから1年、沈黙を続けていたTHA BLUE HERBは第4期を始動した。日本中が落ち着かない状況の中で、家族、友人、知人、取り囲む環境、そして自分自身と向き合い、己の信じる感覚を追い求めることで結実した4枚目のアルバム『TOTAL』。70分に凝縮されたありのままの言葉と重厚なビートは、聴く者を鼓舞し、前進する力強さを与える。

ILL-BOSSTINOは、今回の作品を「渇いた想いをぶちまけた1st、心の内側を掘り下げた2nd、人生を讃えた3rdの延長」と形容する。そこにある意思とは。さらに、結成から現在までの活動を通して備わっていったもの、そして、生まれた場所であり帰っていく場所である札幌に対しての想いとは。邁進し続ける彼らの意識をILL-BOSSTINOとO.N.Oに訊く。

Text by WATACO Photo by Takuya Nagamine

メッセージの向かう先は完全に外側

いよいよ第4期が始まりましたね。今後の活動が大変楽しみです。アルバムを拝聴させて頂きましたが、3月に出された先行シングルとは切り分けて考えられていたんですか?

O.N.O

制作時期はアルバムと同時期だったんだけど、シングルはシングルとして作ってましたよ。

聴いた印象としては全然違うものに感じました。

BOSS

まあ、順番だよね。いつものことだよ。シングル1曲目「STILL RAINING, STILL WINNING」は今までやってきたことを整理して新しくはじめようという意思表示だし、「HEADS UP」は震災の事をはじめ仲間が亡くなったりだとか色々あったことを一度ぶちまけて出し切って、ここからアルバムという大きな世界に向けて動こうって位置づけの曲。

YouTube Preview Image

震災や原発の件は、どうしても起きてしまった事で作品を制作する際には逃れられなかったことだと思います。それを受けて変わった部分はあるんでしょうか。僕自身は、このアルバムにポジティブな意思を強く感じたんですが、それは無意識的になったことなんでしょうか?

BOSS

無意識にはあるかもしれないね。俺らの音楽で「何を伝えるか」って考えた時に、昨年一年間に起きて感じた事っていうのは一部の人間だけが感じた事じゃない。この国には珍しく、全員が同じ事を考え、危機に瀕したっていうか。近くの人と遠くの人ではもちろん程度の違いはあるけれども、全員がそれぞれそういう事を考えるきっかけになったし、それは自分自身も同じ。

そうですよね。全ての日本人に降り掛かってきたと思います。

BOSS

だからその時期に音楽をやっているということ、アルバムを作るタイミングだってことは、やっぱりそういうところからのインスピレーションを否が応でも受けざるを得なかったかな。まあ、そのインスピレーションを受けた時に、最終的に辿り着いたポジティブなメッセージが俺にとって極めて自然だったってことですね。ポジティブなメッセージを出そうと思って出したのではなく、ペンを走らせていくと自然とそういう方向になっていったって感覚の方が適しているかもしれない。

ネガティブな事がありつつも、前を向くしかないってことでしょうか。

BOSS

それしかないっしょ。

CONTRAST [インタビュー] THA BLUE HERB | 等身大で求め続ける「はじめての予感」

では、BOSSさんはその感覚をメッセージとして表出していますが、O.N.Oさんはビート作りにおいて変わった部分はありますか?

O.N.O

やっぱり特別に意識してなくても、みんな同じく考えが変わったと思うしさ。だからそれは意図的にじゃなくて、自然と出てきてて。言葉の伝え方だとか、ましてみんなが喋る言葉ですら気を付けて選ぶようになったくらいなんだから、俺も慎重に伝えるようになっていってるね。それはもうビートのミックス一つとっても変わったと思うよ。

今回のアルバムでも10曲目「GET READY」をはじめとして怒りの部分も随所に出てきますが、「元気づけられる」という部分があるように感じました。言葉にすると陳腐になってしまいますが…

BOSS

昔はホント、俺自身がシャドーボクシングをやってる姿を横から映像で撮ってもらって、それを各々が見ながら自分に投影しながら考えたりするイメージだったと思う。あと、俺とO.N.Oが向かい合って音と言葉をぶつけあっているところを周りが取り囲んで見て、そこからスリルや色んな感覚を味わってもらうのが以前のTHA BLUE HERBだったね。こっち側が意図してた訳ではないけど。

確かに、その印象はあります。

BOSS

ただ、今回は制作上、俺自身とO.N.O自身が向かい合ってはいるけれど、確実に聴いている人の方に向いている。やはりライブをやっていく上で、ずっとお客さんの方を向いて表現してきたってのが影響してるのかもしれない。だから、ほとんどの曲が直接的に語りかけるようなった。3rdも割とそうなりつつあったけれど、今は自問自答している姿を感じてもらうっていうより、メッセージの向かう先は完全に外側。今回のアルバムはそこが顕著だなと思う。それがポジティブに映るのか力強く映るのか、受け取り方は人それぞれだけれど、とにかく俺らの意識も外に向いているっていうのは感じるね。

「はじめての予感」

最終曲の13曲目「RIGHT ON」には「初めての予感がするんだ、あと少しだと。そこまで行かねえと解んねえこともあるんだよ。」というラインがありますが、そういう部分も孕んでるんでしょうか。

BOSS

ある。まあでも、常に俺らはそういうものを探したくて音楽をやっているっていうか。大金持ちになりたいって動機よりは”カッコいい曲を作ろう”ってことが1番の動機だし、それは97年に初めて曲を作った時とほとんど変わらない。その中で作り方や表現の仕方は変わってきてるけど、毎回毎回、今までにないカッコいい曲ができるんじゃないかってワクワクする感覚を味わってる。

初期衝動をそのままに高みを目指している姿は本当に素晴らしいと思います。

BOSS

特に「RIGHT ON」は今回のアルバム制作において本当の最後に作った曲で。現状「RIGHT ON」がTHA BLUE HERBのキャリアにおいて最新の曲なんだけど、これが出来上がった時に俺らは素直に「一番カッコいい曲だ」って思えた。まだまだいける、もっとうまくなりたい、もっと良くなりたい、もっと良い曲を作りたいって感覚はずっと続いてるよ。

CONTRAST [インタビュー] THA BLUE HERB | 等身大で求め続ける「はじめての予感」

次の作品や活動に向けた布石という部分でもあるってことですかね?

BOSS

かもしれないね。今後やっていく以上はそうなっていくだろうし、これすらも通過点になると思う。でも、アルバムの最後の最後でその感覚が味わえたっていうのは俺らにとっては一つの頂点、今回の頂上に辿り着いたって感覚かな。


O.N.O

あと、この曲は、当初アルバムに収録する予定だった曲を全部作り終えてから、「もう一曲作りたい」って気持ちが出てきて生まれたんだよね。


BOSS

やっぱり制作が一旦終えても「はじめての予感」ってのがまだあったんだろうね。まだまだ先にあるのかもしれないって。だから互いに同じ事思ってたし、すぐ作ろうって気持ちになって。


O.N.O

アルバムの最後に入ってるけど、これができたんだからこれからもまだまだいけるってのは強く感じるな。

CONTRAST [インタビュー] THA BLUE HERB | 等身大で求め続ける「はじめての予感」

では、「RIGHT ON」ができる前までは12曲入りの予定だったと。

BOSS

そう、「BRIGHTER」で終わるつもりだった。

言われてみれば、確かに「BRIGHTER」で完結するのも一つと捉えられるかもしれないですね。

BOSS

ただ、「BRIGHTER」を聴いてても困難にある人を以前の状態にまで戻したい、つまり、マイナスをゼロまで戻そうって感覚が強いけど、「RIGHT ON」に関してはもう一歩進んでプラスになろうって感覚があるんじゃないかな。この曲は外に向けたメッセージという意味においても、一つ上の高みにある気がするよ。