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CONTRAST [インタビュー] 誰イズムでもない荒川イズム

誰イズムでもない荒川イズム

飯塚健(プロフィール)

飯塚健

プロフィール 飯塚健
1979年1月10日、群馬県生まれ。22歳の時に『Summer Nude サマーヌード』を初監督。2003年に公開、劇場映画デビューを果たす。その後も『金髪スリーデイズ35℃』(2003年)、『天使が降りた日』の「電柱の上に咲いた花」(2005年)、『放郷物語 THROES OUT MY HOMETOWN』(2006年)、『ハヴァ、ナイスデー』の「wonderful swim」(2006年)、『彩恋 SAI-REN』(2007年)、『REPLAY & DESTROY』(2011年)などを手掛ける。また『燃え尽きる寸前の光』(2008年)、『ファンタジア』(2009年)など舞台演出や、『青い文学シリーズ』などテレビアニメの脚本、『彩恋』などの小説やエッセイ集を上梓するなど、幅広く活躍するマルチクリエイター。『荒川アンダー ザ ブリッジ』では、はじめて原作をもとにした作品に挑戦している。
荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE ウェブサイト
ジャパンクリエイティブマネージメント・プロフィールページ

累計発行部数550万部の大ヒットマンガ『荒川アンダー ザ ブリッジ』(原作・中村光)がドラマに続いて映画化される。

『荒川アンダー ザ ブリッジ』の舞台は荒川河川敷。自らを金星人と名乗る美少女ニノ、河童のボディスーツを身に纏う村長、常に星型のマスクを被っている星など、エリート御曹司のリクは、あまりにも浮世離れしたキャラクターたちと荒川河川敷にて暮らすことになる。リクと強烈な個性の登場人物たちが織り成す、シュールでいて時にシリアスなやりとりが『荒川アンダー ザ ブリッジ』の醍醐味のひとつだ。

『荒川アンダー ザ ブリッジTHE MOVIE』の監督を務めるのは、飯塚健。昨年放送されたドラマ版も彼が監督・脚本を担当し、映画とドラマの撮影を同時期に進めるという異例のスケジュールをこなしてきた。短編仕立てにキャラクターのエピソードが展開されたドラマに対して、映画はどんなストーリーに仕上がっているのか。とても興味深いポイントだ。

現在33歳の飯塚は24歳で映画監督デビューを果たした。以来、映画を中心にドラマ、ミュージックビデオなど、数多くの映像を手掛けているが、実は彼の専門分野は映像だけではない。いわゆるマルチクリエイターとして、舞台演出や小説執筆の分野でも活躍している。映像、舞台、文章までをも扱える飯塚だからこそ、彼が劇中に盛り込むギミックについて、僕らは期待せずにはいられない。

自身が取り組む初の原作モノをどう捉えているのか。公開直前、飯塚監督に心中を訊く。

Text by Shota Kato Photo by Masatsugu Ide

何が大切だったかって言うと、中村光さんだけです。

まずは『荒川アンダー ザ ブリッジ』(以下AUTB)がドラマ→映画と階段を上がっていくことになった背景を教えてもらえますか?

飯塚

『下妻物語』や『告白』『告白』、『八日目の蝉』『八日目の蝉』などを手掛けている石田さん(石田雄治プロデューサー)から、ある日電話がかかってきて「『AUTB』ってマンガ知ってる?」と聞かれて。僕は「いや、知らないですけど」って答えて(笑)。

(笑)。それっていつの話ですか?

飯塚

アニメ化される1,2年前の話ですね。石田さんに「ちょっと一緒にやりたいんだよね」って言ってもらえて、それから原作を読んだのが始まりです。

良いですね、「一緒にやりたい」って。

飯塚

ずっとニアミスをしてたんですよね。石田さんにはデビュー作の頃から目をかけてもらっていて。映画ってなかなか着地できないじゃないですか。

そうですね。「映画やろう」って言っても、簡単には実現できないですよね。

飯塚

ぶっちゃけ「ここで話が無くなっちゃうんだ?」みたいなところもあるじゃないですか。石田さんとはそういう経緯が何度かあったりして「今度こそやろうよ」と。念願および半信半疑っていうか(笑)。

頓挫したこともあったんですか(笑)。今のご時世、原作モノの実写化ってトレンド化してきていると思いますけど、根強い人気のある『AUTB』に関わることになって、少なからずプレッシャーがあったと思うんですね。

飯塚

あったかないかで言うと、もちろんありましたよ。原作を扱うことが初めてだったし。(脚本化した原作は何本もあったんですけど、すべて幻で終わっちゃいました)原作のコアなファンの存在は気にならなかったですよ。何が大切だったかって言うと、中村さん(原作者・中村光)だけです、僕は。彼女が『AUTB』をゼロからイチにした人じゃないですか。その庭でどれだけ遊べるかが実写化することの意味だと思うんで、僕ら映像化するスタッフには何の関係もないんですよ。もちろんファンを意識はします。でも、それがプレッシャーかと言われるとそうではないですね。中村さんが作り出したひとつ一つのキャラクターをどこまで理解しているのか。それを遥かに大事にしてましたよね。中村さんにもファンにも喜んでもらいたいですから。例えば、『AUTB』って略し始めたのも僕なんですけど、そういうところからいいのかな、というのはありましたよ。

CONTRAST [インタビュー] 飯塚健 | 誰イズムでもない荒川イズム—

実写化にあたって、中村さんとはどんなコミュニケーションのやりとりがあったんですか?

飯塚

最初のプロット(※1)の段階で「自由にやって下さい」って言っていただけたんで、細かいやりとりはほぼなくて。脚本っていう意味では、変えたいところは思いきって変えさせてもらって、なぞってるようで全然なぞってないっていうのが良いと思っていました。この話とあの話を組み合わせてっていうやり方もしたので、一つも同じ話はないんですよ。
※1−筋書き、構成

初めて原作を読んだときはどんな印象を持ちました?

飯塚

初めて読んだ時は、まだ4巻ぐらいまでしか出てなかったんですよ。漫画で許されるリアリティって言うんですかね。適当な背景のすっ飛ばしは二次元では許されるし、敢えて細かいリアルな背景を描かないことを、中村さんもやってたと思うんですね。でも、映像を撮るってなるとそれが映りますよね。そこにああいったキャラクターがいると、「なんで着ぐるみを被ってるんだ?」とか、人間的な理由が必要になるじゃないですか。

たしかに。特に『AUTB』は設定を理解するまでに時間がかかると思います。

飯塚

「でも、人間だから素顔を晒すシーンは必要なんじゃないか?」とか、色々とみんなで考え合って。村長の「呼んだ?」とかは面白かったですよね。ここがテイストの肝になるなとは思いましたし、単純に新しい漫画だなとは感じました。僕は最後にあるカラーパートが好きでしたね。たぶん、あれが中村哲学だと思いましたし、あれをちゃんと解釈できていれば、何をやっても平気なはずなんだとは思ってましたね。

CONTRAST [インタビュー] 飯塚健 | 誰イズムでもない荒川イズム—

作品に流れているイズムさえ間違えてなければってことですよね。

飯塚

うん、そうっすね。

どっちも美味しくいただけますよ。

映画とドラマを同時進行で撮影したっていう過酷なスケジュールだったそうですね(笑)。

飯塚

元々、映画が先に決まっていた企画で。そこに後からドラマもやろうってなって。でも撮影期間は変わらないという。もうね、試みなんていうカッコいいものじゃないですよ(笑)。「同時にやってました」って言うと、なんか上手いことやってた感じがしません?

はい、まさにそんな印象ですね(笑)。

飯塚

単純に無茶苦茶だっただけなんで(笑)。例えば、普通のエピソードでやっていくと、小栗くん(小栗旬、村長役)が全くドラマに出なくなってしまうかも知れなくなって、映画だけで精一杯っていうスケジュールだったんですよ。ただでさえタイトなスケジュールなのに、震災の影響で撮影が中断してしまって。村長が出ない回が『AUTB』であったらマズいじゃないですか。荒川の村を作ったのは村長なので。だから、あの白い空間システムを作ったんですよ。

CONTRAST [インタビュー] 飯塚健 | 誰イズムでもない荒川イズム—

あー、なるほど。

飯塚

『サザエさん』でサザエさんが出ない回なんてマズいですよね(笑)。

たしかに(笑)。映画は約120分ですけど、ドラマって10話×約25分=250分で映画より長い尺じゃないですか。ストーリーはネタバレになるので伏せますけど、映画とドラマでリンクする部分が多いですよね。

飯塚

『サザエさん』みたいに超有名ならまだ良いんですけど、ドラマか映画を観て『AUTB』を初めて知る人もいるので、入り口は一緒にしなきゃマズいじゃないですか。つまりルールですよね。「このスポーツはサッカーですよ」っていうルールの説明は必要じゃないですか。ドラマを観てくれた人を前提で映画を作るわけではないので、たとえ映画とドラマが少し被ったとしても、「入り口」は一緒でも良いと思ったんですね。ただ、そこからの展開はまるで違うようにしないとマズいですけど。例えば、天体観測や洗濯のシーンだったり、もともと映画にあったワンシーンを少し足し引くことでドラマのエピソードを一つでも埋められないかなとか。

映画とドラマ二つで一つだと思いましたし、切り分けて観てもいけるんじゃないかなとも思いましたね。

飯塚

「同じ作品か?」って言うぐらいにタッチが全然違いますよね。ひつまぶし感って言うんですかね。

ひつまぶしですか?

飯塚

「どっちも美味しくいただけますよ」っていうことですかね。脚本を書いている段階から、映画とドラマはタッチの違うものにしようというのは明確にありました。ドラマに比べて映画は詰め込み過ぎなくらいに色々な要素が入っているから、感じ方は人それぞれだとは思います。でも、お客さんを元気になって家に帰します。そのために作ってきたんで。