CONTRASTは、創(造)る行為で私たちを魅了する人物にフォーカスし、彼らとの対話から「ものづくりの温度」を伝えるウェブマガジンです。

contrast

CONTRAST [インタビュー] コーヒースタンドのある日常

コーヒースタンドのある日常

Little Nap COFFEE STAND(プロフィール)

Little Nap COFFEE STAND

プロフィール Little Nap COFFEE STAND
Little Nap COFFEE STAND(リトルナップコーヒースタンド)
2011年2月11日オープン
営業時間9:00〜19:00、月曜定休
〒151-0053東京都渋谷区代々木5-65-4
小田急小田原線代々木八幡駅、東京メトロ千代田線代々木公園駅から徒歩5分
TEL & FAX 03-3466-0074

http://www.littlenap.jp/

代々木公園沿いの閑静な住宅街の中に、20㎡ほどのコーヒースタンドがある。 Little Nap COFFEE STANDと名付けられたその店は、どこか工房を彷彿させる無骨な雰囲気ではあるものの、決して息苦しくなるような空間ではない。言うなれば、地域で暮らしている人たちや、そこで仕事をしている人たちがふらっと立ち寄れる、ちょっと気の利いたお店。そんなやりとりが毎日のように営まれて、街に新しい時間の過ごし方を生み出している。

オーナーバリスタの濱田大介は、コーヒースタンドというミニマルな形態にこだわった。Little Nap COFFEE STANDの空間には、彼の並々ならぬコーヒーへの情熱はもちろん、丁寧な工程を経たコーヒーを気軽に楽しんでもらうためのアイデアが凝縮されている。カフェでもなければ喫茶店でもなく、コーヒースタンドに辿り着いた背景や、空間に込められた想いについて語ってもらった。

Text by Shota Kato

モチーフはブーツのリペア屋さん。

世の中的にはカフェが主流だと思うんですが、コーヒースタンドという形態でお店を出した理由を教えて下さい。

濱田

一つは僕にとっての原点回帰ですね。バリスタとしてコーヒーに集中できる、アトリエのような空間を作りたかったんです。コーヒーを生み出すというか、自分のやりたいことと忠実に向き合える場所を。

そもそもコーヒースタンドって、どういった特徴のあるお店なんでしょうか?

濱田

Little Nap COFFEE STAND(以下リトルナップ)に関しては、まず僕がコーヒーを知っているということが大前提としてあります。お客さん目線で言うと、気軽に立ち寄れて、さっとコーヒーを飲める場所ですね。お店がフルサービスをしない代わりにリーズナブルな料金で提供する、コーヒーに特化したクイックなお店というか。リトルナップには簡単なフードメニューがありますけど、中には食事を一切やらないお店もあります。コーヒーを中心に考えて、そこから派生した ものしか提供しません。食事の帰りに立ち寄ったり、ここで待ち合わせして、コーヒーを一杯飲むだけでも良いですし、店内の椅子に座っていただかなくても、売店みたいにテイクアウトしていただいて良いんです。

なるほど。ちなみに、リトルナップのモチーフになっているお店はありますか?

濱田

モチーフは飲食店ではなくて、ブーツのリペア屋さんからインスパイアされました。自分のブーツを修理に出すためにお店へ行ったときに、職人さんたちが汗を流しながらブーツを修理している姿を見て、なんてかっこいいんだろうと。そこから、自分のアトリエみたいな、単純に男臭い工房にしたいなと思ったんですよ。

CONTRAST [インタビュー] Little Nap COFFEE STAND | コーヒースタンドのある日常

職人という点ではバリスタも共通していますよね。

濱田

そうですね。コーヒーというモノだけでなく、その背景やまつわる事柄も探求していくというか。僕にとってお店はブーツと同じなんです。使っていくにつれて、どう変化していくのか。入口の鉄の扉みたいに、錆びてくることで完成するものもありますし、素材に蓋をしてしまうことが好きじゃないんですよ。だから、僕は真っ白いキレイな空間よりも、変化を楽しむことに色気を感じますね。僕はリトルナップを無骨で人間臭いお店にしたかった。真っ白いところに僕がいたら、汚点というか、シミになってしまいますからね(笑)。これは余談ですけど、マキアートってそういう意味なんですよ。

(笑)。お店の作りに関して一つ聞きたいんですけど、リトルナップの店舗設計は、東京R不動産でも有名な馬場正尊さんのOpen Aが手掛けていますよね。

濱田

馬場さんとは、以前にCENTRAL EAST TOKYOというアートやデザイン、建築のイベントでお会いしたんですよ。「街の在り方の中で、コーヒースタンドが補える役割ってあるんじゃないか?」っていう点で意気投合して、仕事をご一緒するようになりました。馬場さんは「ここにこういった場所があれば面白いな」ということを常に考えている人で、僕はそこに共感したんですね。ただ今回のプロジェクトに関しては、申し訳ないけれども、僕のアイデアをベースに皆さんのアイデアをプラスオンしてもらいました。OPEN Aの人たちにも、コーヒーや作業工程のことをもっと知ってもらいたかったですし。

CONTRAST [インタビュー] Little Nap COFFEE STAND | コーヒースタンドのある日常

公園が近くにあることはメリットの一つだと思いますけど、このエリアに出店することを見据えていたんですか?

濱田

人通りの多い場所に出店することは考えていなくて。これまでも、決して立地の良いとは言えない場所にお店を作ってきたので、特に気にしていませんでした。毎分どれだけの人が通って、どこにどんなお店がある、だから何が売れる、みたいな企業のマーケットリサーチは、僕には重要ではないんですよ。路地裏のお店であろうと、近くに住んでいる人も働いている人もいますし、ある種のロケーションがあれば、そこは特別な場所に変わりますから。場所が分かりにくかったら、足を運びたいと思わせるほどのものを作れば良い。僕にとっては公園が目の前にあるだけで最高なんですよ。

トラディショナルなことを現代にどうやって落とし込むか。

冒頭で原点回帰という言葉がありましたけど、濱田さんがコーヒーに興味を持つようになったきっかけを振り返ってもらえますか?

濱田

20代前半の頃にイタリア全土を旅した以来ですね。イタリアにはカフェよりもバールが多くて、地域の生活にバールが密接しているんですよ。当時の僕は、そういった文化を全く分かっていませんでした。バリスタがコーヒーを作っているところに近所の人たちが来て、皆で話しながらエスプレッソを飲む。イタリアに行ったことで、そういう習慣が根付いていることを初めて知るんですね。ナポリ、ミラノ、シチリア、フィレンツェとか、地域によって飲み方が違って、これは面白いなと。

コーヒーだけじゃなくて、それを生み出すバリスタにも関心を示すようになったんですね。

濱田

そうですね。「バリスタってかっこいい仕事だな」と意識するようになりました。それと、ヨーロッパには、社交の場に建築家やお医者さん、政治家とか、色々な職業の人たちが集まるサロン文化が根付いているんですよ。そこでコミュニケーションをとることが街づくりに発展して、そこには必ずカフェがあったんです。カフェに集まる人たちから新しい文化が生まれるというか。

CONTRAST [インタビュー] Little Nap COFFEE STAND | コーヒースタンドのある日常

カフェがコミュニケーションの基地みたいな役割なんですね。「これまでもお店を作ってきた」という話がありましたけど、リトルナップの以前に、濱田さんはどんな飲食の仕事に携わってきたのか教えてもらえますか?

濱田

これまでも僕は飲食に携わる仕事に就いていましたけど、飲食店で働いた経験はほとんどないんですよ。ずっと裏方の仕事で、全国にコーヒー豆やエスプレッソマシンを販売する総合商社に勤めていました。

商社ってことは、濱田さんは営業マンだったんですか?

濱田

そうですね。東京の有名店や老舗にも営業していて、何度も足を運び続けたことで、シェフの方たちに色々な料理の作り方や食文化を教えてもらうようになったんですよ。まぁ、それも休憩の時間を見計らって行っていたからなんですけどね(笑)。そうやって、お店の人たちと仲良くなるきっかけが増えたことで、カフェのインフラを賄う仕事を担当させていただくことになって。

信頼を得て、それが新しい仕事に繋がったんですね。

濱田

そんな大それたことはやってないですよ。僕はただの営業マンでしたけど、お店のミーティングや会議に参加するようになったんです。そこには建築家やデザイナー、プロデューサーとか、お店に関わる色々な人たちが、お店のコンセプトやそれに合う食事、コーヒーとかについて話し合っているわけですよ。そういう場に参加することで、お店がどうやって成り立っているのかを知ることができました。僕も率先して発信していく中で、自分の提案が通る機会が増えて、営業マンとクライアントの一線を越えたというか。

お店作りのプロセスに入り込むようになったんですね。例えば、どんな提案が採用されたんですか?

濱田

当時は、フレーバーを入れたコーヒーやフローズンが流行り始めていて。僕はそうじゃなくて、トラディショナルなことをどうやって現代に落とし込むかということを率先してやっていました。その軸がエスプレッソなんですよ。

CONTRAST [インタビュー] Little Nap COFFEE STAND | コーヒースタンドのある日常

これもある意味、原点の一つですよね。

濱田

エスプレッソに合うミルクや砂糖の足し引きは、エスプレッソそのものが美味しくないと活かせないんですよ。だから、僕にとっては、今も昔も大手のコーヒーチェーンとの戦いでもあるんですよ。それ以前に相手にされていないと思いますけど(笑)。