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CONTRAST [インタビュー] 音楽で生きていく。

音楽で生きていく。

五味岳久(プロフィール)

五味岳久

プロフィール 五味岳久
LOSTAGEのベース&ヴォーカルを担当。

LOSTAGE
五味岳久、五味拓人(ギター)、岩城智和(ドラム)から成るスリーピースロックバンド。2001年、地元奈良にて五味兄弟を中心に結成。現在も奈良在住、地元を拠点に精力的な活動中。90年代洋邦のあらゆるロック的な音楽から影響を受け、地方発信、地域密着をモットーに独自の活動を展開している。結成当初はツインギターの4人編成であったが、幾度かのメンバーチェンジを経て、前作『LOSTAGE』から3人編成にて活動。Twitterでは五味兄の描く似顔絵『五味アイコン』が話題になり、似顔絵の展覧会まで開催された。メジャー・インディーを問わず、様々なジャンルのアーティストとの親交も深い。2011年に結成10年目迎え、自主レーベルTHROAT RECORDSを立ち上げる。最新作は8月3日にリリースされるミニアルバム『CONTEXT』。
http://www.lostage.co/

早いものでLOSTAGEが結成して10年になる。結成以来、彼らはずっと奈良を拠点に活動を続けている。大多数のバンドが東京で活動している現実の中、奈良にこだわり続けて、絶対にそのスタンスを曲げない。LOSTAGEは揺るぎない信念を持ったバンドだ。

この10年間、色々なトピックがあった。例えば、レーベル移籍によるリリース環境の変化やメンバーチェンジによる体制の変化、メンバーが4人から3人になったことで、心機一転、バンド名を小文字から大文字表記に改めた。文章にまとめる分にはさらっと書けてしまうが、ひとつ一つの行間には、当事者たちにしか分からない苦悩や葛藤があったに違いない。

最近では、音楽以外の部分にスポットが当たることもあった。Twitterユーザーにはお馴染みの「五味アイコン」である。ベース・ヴォーカルの五味岳久が描く似顔絵のことだ。五味のイラストが一つのきっかけになって、LOSTAGEのネットワークは今までに増して広がり、バンドの知名度も高まった。でも、それはバンドと五味が意図していないことのようにも映った。マイナス要素は一切ないとは思う。ただ実際のところ、五味本人はどう思っているのか。胸の内を聞いてみたかった。

今回、LOSTAGEはTHROAT RECORDSというレーベルから、ミニアルバム『CONTEXT』をリリースする。このレーベルは、LOSTAGEが立ち上げた彼らの自主レーベルだ。その記念すべき1枚目にあたる『CONTEXT』という作品は、ある出来事がきっかけで大きなテーマを掲げるようになる。明確なメッセージが詰まっているし、自分たちでレーベルを運営していく意思表明としても、とても大切なアルバムである。自主レーベルの設立経緯、作品への想い、昨今の話題になっているイラストのことについて、五味岳久が語る。

Text by Shota Kato Photo by WYPAX

今までの経験があったから、自主でやることを決めた。

今年でLOSTAGEが結成して10年になるんですよね。これまでLOSTAGEはUK PROJECT、TOYS FACTORY、AVOCADO RECORDSとレーベルを渡り歩いてきました。その辿り着いた先が今回立ち上げたTHROAT RECORDSという自主レーベルですが、僕は今回も続けてアボカドからリリースするんだと思っていました。

五味

僕も最初はそうなるかと思っていました。

なぜ自分たちのレーベルを立ち上げることを決めたんですか?

五味

アボカドに何の不満もなかったんですよ。前作の『LOSTAGE』というアルバムを出そうと声を掛けてくれたアボカドの斉藤(匡崇)さんのこともメンバーみんな好きで。斉藤さんはナンバーガールとかのエンジニアをやっていた人だから、録音のやり方も完成した作品も気に入っていましたし。やれるなら次も一緒にやりたいという気持ちもありました。でも、仮に次もアボカドからリリースすることを考えたんですね。自分らが爆発的に売れるとか、生活に劇的な変化が起こったりするかなんて、10年もバンドをやっていると、だいたい分かるじゃないですか。僕らの作品がどれくらい売れて、必要とされているとか。

CONTRAST[インタビュー] 五味岳久 | 音楽で生きていく。

シビアな自己分析ですね…。

五味

もちろん、セールスがちょっと伸びたり、逆に落ちたりすることもあると思います。でも、今のセールスぐらいで続けていくためにどうするかっていうことを考えたら、一番良い方法が自主レーベルを立ち上げることだったんですね。リリースの仕方を変えることで、自分たちが得られるお金を少しでも増やすというか。

なるほど。僕は今回のLOSTAGEの決断は、これまでの経験を踏まえれば、遅かれ早かれ選ぶことになったんじゃないかなと思っています。

五味

そうですね。今までの経験があったから、自主でやることになったと思います。これまでお世話になったレーベルの人とか、今でもライブを観に来てくれたり、連絡もとったりしているんですね。そういう人たちがいたから、「自主でやってみます」って言えたと思っているので、すごく感謝しています。

周りも送り出してくれたんですね。

五味

すごく応援してくれていて。けっこうサンプルCDを送ったんですけど、周りにも宣伝してくれているみたいなんです。嬉しいですね。

自主レーベルを立ち上げるにあたって、分からないことも山ほどあったと思うんですね。周りの方たちにはどんなアドバイスを求めましたか?

五味

アボカドの斉藤さんには、次の作品をアボカドでリリースした場合のお金の動きとかを。例えば、原盤権ってあるじゃないですか。ライセンスを自分たちが持ってアボカドでリリースした場合や、半分ずつにしたらどうなるか?とか、細かいところまで計算してくれて。それをもとに考えたら、やっぱり自分たちでやるしかないっていう結論になったんです。自分たちでやっているバンドマンっていっぱいいるじゃないですか。周りの意見を聞きながら、自分たちのやり方を見つけていきました。

中には否定的な意見も?

五味

それはなかったです。やり方というか、例えば、プロモーションにお金を掛ける人とそうでない人がいますよね。あと、バンドに専念している人もいれば、別で仕事を持っている人もいますし。そういう人たちのちょっとした意見の違いはあったけど、自主でやることに対して「ちょっと待て」みたいなことを言われることは全然なかったですね。

なるほど。ちなみに、五味さんがレーベル業務を切り盛りしているんですか?

五味

そうですね。でも、まだ1枚目なので勝手がよく分からないんですよ。流通をやってくれるのがバウンディという会社なんですけど、紙資料や注文書の作り方や、ジャケットのデータの入稿方法とか、色々なことを担当の人に教えてもらっています。

自主レーベルを立ち上げるにあたって、五味さんは仕事も辞めたんですよね。

五味

立ち上げることを決めたのと同じ時期に、似顔絵の展示会をやらせてもらって、そこでグッズも売らせてもらったりして。他にも、個人でイラストの仕事をもらうようになったんですね。それに自主でやることになったら、今まで以上にバンドに注ぐことのできる時間も増えると思ったので、メンバーに仕事を辞めようと思っていることを相談しました。そのときに、バンドで今までやったことのなかった通販をやりたいということも話したんですね。

CONTRAST[インタビュー] 五味岳久 | 音楽で生きていく。

ブログの中でやっていますよね。D.I.Yな感じというか。

五味

メンバーには、「通販をおれに任せてほしい。申し訳ないけど、自分で何から何までやるから、通販の収益はおれの生活費に充てさせてほしい」っていうことを正直に伝えました。ただその分、「レーベルのことは全部おれがやるから任せてくれんか」って。メンバーは「それでやれるんやったら頑張ってくれ」って言ってくれて。それで8年続けてきた仕事を辞めて、バンドとレーベルに専念することを決めました。

今回の自主レーベルの立ち上げには、メンバー間でも建設的な話し合いがあったんですね。実際にレーベルを運営することになって、サンプルCD以外にも紙資料を作ったり、かなり業務が増えたと思います。今まさにリリースに向けての準備期間なわけですが、どうですか?

五味

「これはおれのやりたかったことじゃない」とか思うこともあります(笑)。でも、やりたいことをやるためには、やらなければいけないから。

たしかに。

五味

会社だと、一度にいっぱいCDを焼ける機械があるじゃないですか。でっかいコピー機とかも。そういうところと比較すると、僕は自分の家でやっているので面倒くさいとは思います。物販のグッズも家で作っているんですけど、バッジを作る機械とか、かなりかさばるんですよ。あと、材料やTシャツの在庫で部屋がめちゃくちゃになっていて(笑)。

レコーディングの途中から、希望になるものを作りたいなと思い始めた。

THROAT RECORDSの由来を教えてもらえますか?

五味

由来は、前作の『LOSTAGE』というアルバムに入っている”喉”という曲名からですね。自分たちのレーベル名だから、自分たちの曲名からとるのが一番良いのかなって思いました。曲のタイトルを並べてみたら、”喉”がしっくりきたんですよね。

僕、THROAT RECORDSも今回の『CONTEXT』というミニアルバムにも、キーワードの一つに、五味さんたちの地元である奈良が含まれていると思っているんですね。

五味

あぁ、なるほど。バンドの一つのテーマとして、ずっと奈良で活動し続けることで、自分の住んでいる街を盛り上げるというのはあります。でも、レーベルに関しては、地元をフックアップしたいっていう気持ちはあまりないんです。そもそも流通を東京の会社に手伝ってもらっている、というのもありますし。今って音源じゃなくても色々な情報が同じところで共有できる世の中じゃないですか。だから、音楽を作って発信するということには、地域性には重きを置いていないんですね。今は僕らの作品を出すことしか考えていないですけど、ゆくゆく縁や機会があれば、誰か他のアーティストの作品もやってみたいとは思います。奈良にも良いバンドがいて、やりたいと思えばやるし、特に限定せずにやりたいなと思いますね。逆に、遠く離れたところにいる人の作品を出す方が面白いかも。

『CONTEXT』というミニアルバムで、LOSTAGEは初めてコンセプチュアルな作品を作ったと思います。自主レーベル第一弾の作品を、五味さんはどんなものにしたかったんでしょうか?

五味

作り始めたときは、奈良推しとか全体のテーマすらなかったんですよ。とりあえず、ミニアルバムぐらいの作品を自主でリリースするというか。もちろん自分が良いと思った曲を入れようと思いましたけど、どちらかと言えば、作品の内容というよりは、自主で発信するっていうことに重きを置いていたというか。最初はメッセージなんて何もなくて。あるとすれば、僕らが自主でやることを見て「あいつら頑張ってんな」とか、バンドをやっている仲間や後輩にとって「あんなやり方もあるのか」みたいな気付きにはなりたかったというか。

敢えて聞かせて下さい。何がきっかけになって、アルバムのテーマが生まれたんでしょうか?

五味

ちょうどレコーディングに入った頃に震災が起きて。ほとんどのバンドマンや音楽を作っている人が、大なり小なり震災の影響を受けたと思うんですよね。僕らみたいに制作途中だった人たちとか、これから作る人たちとか。僕らも東北にはライブでも行っていたから、自分の住んでいる街や場所を失ってしまった人たちに、自分たちの曲を聴いてもらいたいと思いました。なんて言うのかな…。聴いて元気になるって言ったら安易ですけど、レコーディングの途中から希望になるものを作りたいなと思い始めたんです。だから、6曲目の”NEVERLAND”はもともとなかった曲なんですよ。

CONTRAST[インタビュー] 五味岳久 | 音楽で生きていく。

当初は5曲入りの予定だったんですね。

五味

メンバーにそういうものを作りたいっていうことを伝えて、自分の頭の中にあった曲を作り始めて、一回ぐらい練習で合わせてそのまま録ったんですよね。曲の構造は簡単なんですよ。

アルバム曲のラインナップの中で、”NEVERLAND”は明らかに一番明るい印象の曲ですよね。そういった意味でも、今までのLOSTAGEにはなかったタイプの曲だと思います。

五味

うん、あの曲があったから出来たアルバムですね。結果的に良かったなと思っています。初めて何かのためにやりましたし、目的あっての作詞と作曲は、自分が録音してきた中では初めてのことですね。

“NEVERLAND”は色々な前向きの解釈が出来る曲だと思います。震災に遭った人たちの故郷であり、誰にとっての故郷のことも歌っているというか。

五味

大きな意味でのポジティブなバイブスというか、震災以降はそれがないと「今リリースする意味ないやろ」といった考えに変わっていったんですよ。

『CONTEXT』は文脈や背景といった意味で使われる言葉ですが、五味さんはどんな意味を込めましたか?

五味

僕らの一連の活動や今までのリリースの仕方、メンバーが変わって3人になったこと、地震が起こって音源がこういうものになったとか。ひとつ一つのトピックを切り取るのも良いんですけど、僕やメンバーが大事にしているのは、僕らが今までどういう活動をしてきたとか、どういうところで活動してきたとか、そういった部分なんですね。メジャーデビューしたことで、今まで一緒にイベントをやってきた人たちと縁が切れるかと言ったらそうではないし、そういう人たちとやっていたから次に進めたと思うんです。だから、また戻って来れる場所もあるというか。そういう人間関係や繋がりがすごく大事だなっていうことを作りながら感じていて。それで『CONTEXT』というタイトルがすごく良いんじゃないかなと思ったんです。

「繋がり」は、ここ最近のLOSTAGEや五味さんを象徴する言葉だと思います。

五味

そうですね。会社とかバンドとか、そういう区切りじゃなくて、人と人との繋がりから面白いアクションが出てくると思うんですよね。