CONTRASTは、創(造)る行為で私たちを魅了する人物にフォーカスし、彼らとの対話から「ものづくりの温度」を伝えるウェブマガジンです。

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CONTRAST [インタビュー] 二つの大切な目線

二つの大切な目線

青山有紀(プロフィール)

青山有紀

プロフィール 青山有紀
青家代表。京都出身。大学卒業後、美容業界を経て『青家』を中目黒にオープン。実家は京都御所前で『談笑庵青山』という1日1組限定の料理屋を経営。母から受け継がれた京おばんざいと韓国家庭料理を提供すると共に、美容の知識を生かしたスイーツなども開発している。2010年に国立北京中医薬大学日本校を卒業し、国際中医薬膳師資格を取得。2011年4月には新店『青家のとなり』をオープンした。二つの飲食店の経営と同時に、『Lips』(マガジンハウス)にて、梶原由景氏(LOWERCASE代表)と連載も担当している。著書『青山有紀の幸せ和食レシピ』(2011年、日東書院本社)が好評発売中。
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中目黒駅から山手通り沿いに歩くこと約7分。目黒川近くの路地裏に築35年の一軒家を改装した飲食店がある。青家と名付けられたその場所は、昼は一般に開放されたカフェ、夜は会員制のおばんざい屋という二つの表情を持つ。食に敏感な女性を中心に根強い支持を集める都内有数の人気店だ。代表を務める青山有紀は、青家を創業する以前に飲食店で働いたこともなければ、専門学校で学んだこともない。大学卒業後に就職した美容業界で経験したあることがきっかけで、飲食業界への転身を決意した。青家の歴史はそこから始まった。

青家の人気が高まってゆく中、青山は国立北京中医薬大学にて中医学を学び、国際中医薬膳師という中国の国家資格に見事合格。資格取得にチャレンジしたかった理由は、薬膳と向き合う者として、しっかりと中医学を学びたかったから。その証しとして資格の取得にこだわった。また青山は、お店の経営以外にメディアの仕事も抱えている。多忙をきわめる状況にもかかわらず、今年の4月には新店『青家のとなり』をオープンさせた。なぜ彼女は休むことなく歩き続けるのだろう?青山有紀の信念と原動力に迫る。

Text by Shota Kato Photo by WYPAX, Yuki Aoyama

まさか飲食店をやるとは思っていませんでした。

青山さんは生まれと育ちが京都ということで。京都にはいつまでいらっしゃったんですか?

青山

20代前半までだったかな。あ、そんなことないや。20代後半までいましたね。

いきなりで失礼なんですが…、今はお幾つになられたんですか?

青山

37歳です。

えー!驚きました…。もっとお若いのかと。

青山

ありがとうございます(笑)。

ご実家が京料理屋さんですよね。青山さんが生まれる前から営まれていたんですか?

青山

いえ、私が高校生くらいになってからですね。私の祖父が韓国から日本に渡った人で、若い頃にお医者様から結核で死ぬと言われていたんですが、食養生を勉強して、韓国の漢方で動物のエネルギーを摂ったり、薬草を飲んだりして、80歳過ぎまで生きた人なんですね。そういう祖父だったので、一般の家庭にはないようなものがたくさんありました。

例えば、どんなものですか?

青山

すっぽんが歩いていたり、サルノコシカケや生の朝鮮人参とかも置いてありました。家族でヤギ一頭分の肉を食べて、残った骨を飼っていた犬に与えたり。食べることにものすごく執着のある家族だったんですね。母は京料理のお店をいつかやりたいとは言っていましたけど、私たちを育てている間はそれを出来なくて。そういうのを見て育ってきたから、飲食店をやっていくことの大変さが身に染みて分かるんです。働いた分だけ必ず儲かるわけではないですし。そんなしんどい姿をずっと見てきたのに、まさか自分が飲食店をやるとは思っていませんでした。

青家を始める前は、どんなお仕事に就いていらっしゃったんですか?

青山

大学を卒業して、新卒で化粧品メーカーに入社したんですね。当時も飲食店なんて全く頭になくて。いわゆる美容部員で、ホテルやデパートでお客様にメイクやお肌のお手入れをする接客業でした。当時、化粧品はデパートでも売っていたし、チェーン店では同じ商品が安く売られていたんですね。一生懸命やらないとモノが売れない時代だったので、熱心にメイクやお肌の勉強をしながら仕事を頑張っていました。

食に興味を持つようになったきっかけは?

青山

言葉にするのは難しいんですが、スキンケアを同じようにお勧めしても、キレイになれる方と、なかなか上手くいかない方がいらっしゃったんです。キレイになりたいという気持ちは同じなのに、どうして違うんだろうと思って、お客様にお話を聞かせていただいたんですね。そうしたら、その理由が食べ物にあったんです。そのとき、食べ物を食べるということが、直接自分の体を作っているということに気付かされました。やっぱり食べ物はすごいんだなと思って、それから今の流れになったんですね。

CONTRAST[インタビュー] 青山有紀 | 大切な二つの目線

何も考えずに気持ち良くなってもらいたい。

取材をご依頼したときも仰っていましたけど、青山さんは料理の専門学校に通っていないんですよね。おばんざいに興味を持ち始めたのはいつですか?

青山

30歳くらいの頃ですね。イタリアンやタイ料理も大好きなんですけど、色々な料理を食べて自分なりに研究した結果、自分がお客様に出す料理は、おばんざいが良いなと思いました。

なぜおばんざいを選んだのでしょう?

青山

東京に来て、体に良くないものとかも食べたりして気付いたんですが、京都にはお寺の文化で中国からの仏教の流れとともに、薬膳という食に関する理念というか哲学があるんじゃないかと、私は考えています。お寺文化の精進料理が薬膳の考え方そのものだと思うんです。

上京してから気付いたことなんですね。

青山

実家で暮らしているときは、お寺の文化が日常の一部だったから気付きませんでした。薬膳は決して過激なものではないんです。本来の目的は、そのとき必要なものは自然が与えてくれるから、季節のものを食べるとか自然の変化とともに自分の食べるものを調整していくというのが、薬膳の考え方なんですね。日本では薬を使ったりして伝えてしまった人がいるので、どうも誤解されているみたいで。

たしかに。薬膳と聞くだけで、直感的にクセのある味を連想してしまいそうです。

青山

薬膳は、普通の生活に根ざしたものなんですよ。そういう精進料理が京都で広まって出来た文化が、おばんざいだと思うんですね。おばんざいって何月何日にこれをいただくとか、夏にはニシンとナスを合わせるとか。研究していると必ず薬膳的な効能があるんです。

ニシンとナス以外には、どんな食材の組み合わせがあるんですか?

青山

例えば、カニはすごく体を冷やすから必ず生姜を一緒に摂って、胃を冷やさないように温めるとか。美味しいだけじゃなくて、体にどんなふうに吸収されるのかを考えているのが、おばんざいであり、薬膳なんですね。

おぉ、勉強になります。

青山

薬膳の理念は美しくて好きなんですけど、メニューであまり薬膳を強調するのは好きじゃないんですよ。メニューの一部におばんざい定食と名前を付けていますけど、実は青家のとなりで売っているクッキーのひとつ一つも薬膳なんですね。そういう意味を持って私はものづくりをしてはいますけど、お客様には別に分かっていただかなくて良いんです。

なぜですか?

青山

薬膳の効能って、ごく自然なことなんですよ。次の朝、なんだかお通じが良いとか、疲れていたけど元気が出たとか。そういうことが本来の当たり前のことというか。だから、頭で食べてもらいたくないんです。面倒くさい勉強は私がするから、お客様には何も考えず気持ち良くなってもらいたいなって思います。

なるほど。敢えてお客さんには効能を言わないんですね。

青山

そうですね。もちろん聞かれたら答えますけど、あまり自分からは言わないですね。薬膳料理の店という打ち出しはしたくないんです。

青家で過ごす時間や青家の空間を楽しんでもらいたいということですか?

青山

やっぱり、それが食で一番大事なことですね。私たちがどれだけ一生懸命に料理を出したとしても、お客様が上司に怒られながら彼氏と喧嘩しながらとか、そんな状況で食べていても、全然美味しくないですよね。食べるということは、食べ物そのものと同じくらい空間だったり、なぜそれを食べるかという理由や、プラスアルファが大事だと思います。だから、私は言わないんですね。ベテランの人たちから見れば、私はまだ遠い道のりですけど、飲食店の経営を経験してきて大事だと思うことは、削る美しさです。自分の持っている情報を全部出せば良いというわけではないんですよ。

CONTRAST[インタビュー] 青山有紀 | 大切な二つの目線